『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』泉谷しげる著(幻冬舎新書)
[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)
毒づいて気遣う柔軟さ
子供の頃、テレビの画面の中を所狭しと暴れ回り「バカヤロー!」と叫ぶ著者を見て、「なんておっかないおじさんなんだ!」と思った。心にまっすぐに突き刺さってくる歌声や、バラエティやドラマでの圧倒的な存在感からも、この人はもともと強い人で、私のような小心者とは対極にいる存在なのだろうと感じてきた。
しかし本書の中で著者は、「オレなんてさ、本当は臆病で、気が小さい、みみっちい人間なのさ」と語り、あの「バカヤロー」キャラはその性格ゆえに生まれたのだと言う。まずそのことに驚いたが、さらに私が感銘を受けたのは、著者の類い稀(まれ)なるバランス感覚だ。
著者は、自身のキャラを巧みに生かしながらも、そこから外れた活動をすることを厭(いと)わない。40代でチャリティーを始めたときは、「どうせ売名行為だろ」「偽善者」などと非難されたが、「売名行為で何が悪い!」と言い返し、「一日一偽善」という標語まで作った。そうやって毒づきつつも、協力してくれる人に対しては善意を強制しないよう、チャリティーは基本的にひとりでやり、募金だけに頼らない方向に舵(かじ)を切る。気遣いの細やかさと柔軟な姿勢に脱帽するばかりだ。
著者にそのような振る舞いができるのは、自分や他人がどうやったら力強く生きられるかをとことん考え、つねに試行錯誤しているからだ。著者は「人間は何歳になっても成長できる」と言い、挑戦を続ける。著者はなんと60代から自炊を始め、まったくできなかった料理や家事ができるようになったという。「成長できないヤツの典型は『他人に甘えるヤツ』」という言葉に非常に思い当たる節がある私は、本に対して思わず「すみません!」と頭を下げてしまった。
著者の言葉を味わっていると、お腹(なか)の底がじんわりと暖かくなってくる。どの世代の人にとっても、生きる糧となる部分がきっとあるはずだ。この本を読めたこと、著者がこの本を出してくれたことに感謝したい。