『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』泉谷しげる著(幻冬舎新書)

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キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを

『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』

著者
泉谷 しげる [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344986800
発売日
2023/01/20
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』泉谷しげる著(幻冬舎新書)

[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)

毒づいて気遣う柔軟さ

 子供の頃、テレビの画面の中を所狭しと暴れ回り「バカヤロー!」と叫ぶ著者を見て、「なんておっかないおじさんなんだ!」と思った。心にまっすぐに突き刺さってくる歌声や、バラエティやドラマでの圧倒的な存在感からも、この人はもともと強い人で、私のような小心者とは対極にいる存在なのだろうと感じてきた。

 しかし本書の中で著者は、「オレなんてさ、本当は臆病で、気が小さい、みみっちい人間なのさ」と語り、あの「バカヤロー」キャラはその性格ゆえに生まれたのだと言う。まずそのことに驚いたが、さらに私が感銘を受けたのは、著者の類い稀(まれ)なるバランス感覚だ。

 著者は、自身のキャラを巧みに生かしながらも、そこから外れた活動をすることを厭(いと)わない。40代でチャリティーを始めたときは、「どうせ売名行為だろ」「偽善者」などと非難されたが、「売名行為で何が悪い!」と言い返し、「一日一偽善」という標語まで作った。そうやって毒づきつつも、協力してくれる人に対しては善意を強制しないよう、チャリティーは基本的にひとりでやり、募金だけに頼らない方向に舵(かじ)を切る。気遣いの細やかさと柔軟な姿勢に脱帽するばかりだ。

 著者にそのような振る舞いができるのは、自分や他人がどうやったら力強く生きられるかをとことん考え、つねに試行錯誤しているからだ。著者は「人間は何歳になっても成長できる」と言い、挑戦を続ける。著者はなんと60代から自炊を始め、まったくできなかった料理や家事ができるようになったという。「成長できないヤツの典型は『他人に甘えるヤツ』」という言葉に非常に思い当たる節がある私は、本に対して思わず「すみません!」と頭を下げてしまった。

 著者の言葉を味わっていると、お腹(なか)の底がじんわりと暖かくなってくる。どの世代の人にとっても、生きる糧となる部分がきっとあるはずだ。この本を読めたこと、著者がこの本を出してくれたことに感謝したい。

読売新聞
2023年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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