『狐小僧、江戸を守る』
書籍情報:openBD
[本の森 歴史・時代]『狐小僧、江戸を守る』柿本みづほ
[レビュアー] 田口幹人(書店人)
最近は、目的の本がある場合オンライン書店で購入することが増えた。とくに昨年の後半は、時間が取れず書店に足を運べずにいた。年明け早々書店に行き見逃していた本がたくさんあることに気が付き購入する。やはり書店には新しい出合いが埋まっている。これだから書店通いはやめられないのだ。
『狐小僧、江戸を守る』(柿本みづほ/角川春樹事務所)も書店で出合った一冊だ。初読みの作家さんである。
鼠小僧ならぬ狐小僧とは何だろうと、読み始めるとページをめくる手を止められなくなっていた。
時は江戸。上野の禅寺・太福寺で住職と暮らす十四歳の弥六は、妖怪と人間の間に生まれた。いわゆる半妖の子だ。
弥六の父・白仙は、七年前、突然妖怪たちを引き連れて江戸を襲撃し多くの人命を奪った、江戸で語り継がれる「白仙の乱」を引き起こした妖狐である。それまでは、幕府と盟約を交わし、陰ながら江戸を守る存在だったはずなのに。この事件以降、江戸の人々は妖怪を恐れ憎むようになった。
裏切られた幕府の妖怪に対する怒りと憎しみはすさまじく、怨霊怪異改方――通称・孔雀組を組織し、妖怪の取締りを強化していた。
人間と妖怪双方の血を引く者として、成すべきことは何か。大食らいで力持ちだが、あとはなんの変哲もない若者とみられていた弥六は、白仙の残した禍根と、人間と妖怪の間に横たわる溝を埋めるべく、狐面を被り、カラスの姿で暮らす烏天狗の黒鉄をバディとして夜空から江戸を見廻っているのだった。狐面は、いつしか狐小僧と名づけられ義賊として町人たちの人気を集めることになる。
本書は、「白うねり」、「蟹坊主」、「飛縁魔」「化け狐」の短編四篇で構成されていて、いずれも人間と妖怪が感情の表裏であることが物語の肝となっている。妖怪はみな、元は神であり、それは人間が創り出したものである。人間が畏れと敬いを忘れ、神を矮小なものへと貶めたことが妖怪を生み出したのだ。
物語が進むにつれ、人間と妖怪の溝が少しずつ縮んでいくが、再び人間と妖怪がともに平穏に暮らせる世を創ることができるのか。
魅力的なキャラクター(妖怪)が多数登場するが、最後の一篇「化け狐」で、「妖怪はもちろん人間すらも信じるに値しない」と言い切る孔雀組の隠密同心・南條明親が登場する。宿敵の登場をラストに持ってきたということは、シリーズ化を期待して良いということだろうか。
まずは、ニューヒーローの誕生を歓迎したい。