「生々しい私の大学生活です」宮田愛萌が初小説に反映させた実体験を明かす【宮田愛萌×三宅香帆対談】

対談・鼎談

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きらきらし

『きらきらし』

著者
宮田 愛萌 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103549413
発売日
2023/02/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

万葉集を愛する二人の多すぎる共通点

[文] 新潮社

生々しい大学生活の描写!?


『万葉集』への造詣が深い三宅香帆さん

三宅 愛萌ちゃんは万葉集で好きな歌人とかいますか?

宮田 私は作者未詳の歌が好きなんです。作者がいる歌はその特色まで考えたくなるけど、作者未詳だと歌の方だけに集中できる気がして。この作者はあの歌も詠んでるから……と情報過多になっちゃって。レポートを書く上では絶対作者がいた方がいいんですけど、きちんと読むならいない方がおもしろいな、と。

三宅 なるほど。レポートといえば、「紅梅色」の語釈(語句の意味の説明)をつけるシーンがすごいリアルで。こうするとちゃんとして見える、みたいな。あれはやっぱり実体験に基づいているんですか。

宮田 はい。生々しい私の大学生活です(笑)。私の習っていた先生が、資料はあればあるほどいいという方で。語釈を参考にするのはいいけど、訳は自分の解釈を考えてほしいという感じだったので、一文字ずつ漢字の意味を調べたりしていました。

三宅 それってめっちゃ大変ですよね! 私は漢字の知識がなくて苦労しました。万葉集は、中国の漢籍から影響を受けていたりもしますよね。

宮田 そうなんです、だから漢詩を調べて「漢文読めん!」となって。

三宅 めっちゃわかります! 私も国文学専攻なのにうっかり中国語取らないでフランス語取ってたんです。

宮田 うわー、私もフランス語です!

三宅 中国語にしとけばよかったと。

宮田 思いました!

三宅 漢籍調べたら中国語のページにいった!とかありますよね。

宮田 すっごいわかります!

三宅 修士論文で万葉集の巻二の石川郎女が詠んだ歌を扱ったんですが、解釈に「文選」とか「遊仙窟」とかの漢籍を使わなきゃいけなくて。本当に最後まで、やばい、自信がないと思っていました。しかも「遊仙窟」は下ネタが割と多くて、引用に困る。

宮田 あるあるですよね。直接的すぎて、これ発表で使いたくないんだけど!と。オブラートって存在しないの?っていう気持ちになります。

三宅 中国の漢詩は表現がどぎつくて、万葉集の方が全然オブラート。

宮田 確かに、そういうときも平安時代いいな、って思いました。源氏物語とか、全て結構厚めのオブラートに包んでくれる。

三宅 わかります! 逆に源氏は何があった?くらい厚い。平安時代のものとかも読んだりされるんですか。

宮田 普通に読むぐらいです。青い鳥文庫の『あさきゆめみし』を小学生の頃に読んで、そこから源氏物語や枕草子はとりあえず読みました。

三宅 私、いまだに「ひらがな推し」の源氏物語回を覚えていて。私も国文の友達と一番盛り上がるのって、源氏物語を実写化したら、なので。

宮田 絶対に、人間だれでも妄想しますよね。

三宅 やっぱりそうですよね。私も『あさきゆめみし』から入って、原文読もうとして、むずい! 主語、誰?と。万葉集の和歌の方がシンプル。先生方も自由な解釈してるし。

宮田 そうなんですよね。大学の授業で、万葉集の七夕歌の、上の句と下の句で視点が変わる歌を説明するときに、「実は主人公は巫女で、織姫が取り憑いていて、二つ視点があるんです」と説明をして、拍手をもらったことがあります。

三宅 ありそう! 自由な発想がきく世界ですよね。そもそも、愛萌ちゃんが万葉集に興味を持ったきっかけって何なんですか?

宮田 元々は枕草子か妖怪について勉強したいと思ってたんですけど、うちの大学のオープンキャンパスで、土佐秀里先生の万葉集の授業がめちゃめちゃ面白くて、この先生の授業を受けようと思いました。もうこれしかないと思って、AO入試だったんですけど、面接でも万葉集がやりたいんですと言って入りました。

三宅 すごくわかります。私も大学に入る前は伊勢物語がすごく好きでやりたいと思っていたけど、先生の話を聞いて、和歌の方がやれること多そうだなと。読んでいて面白いものと研究したいものは違うんだなと思いました。

新潮社 波
2023年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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