アメリカ・ミステリー最前線 クライムノベルは深化する!

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アメリカ・ミステリー最前線 クライムノベルは深化する!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 アメリカの著名なミステリー文学賞三賞を、日本でも俄然注目を集めた『黒き荒野の果て』に続いて二年連続でゲットした、クライムノベルの大型新人の長篇第三作。

 物語は庭園管理会社を営む主人公アイク・ランドルフのもとにジャーナリストの息子アイザイアの訃報が届く場面から始まる。アイザイアはゲイで、ベーカリー店勤めの白人の夫デレク・ジェンキンスともども、無残に顔を撃ち抜かれたのだ。

 黒人で服役経験もあるアイクは苦労して堅気生活を築き上げてきた。込み上げる怒りを抑え犯人捜しは警察に任せるものの、二ヵ月たっても捜査は進まない。一方、怒りを抑えられないのは酒浸りのデレクの父バディ・リーだ。彼はアイクと会って共闘を申し出るが、アイクは内なる怒りの暴走を怖れて拒否。しかしアイザイアたちの墓地が荒らされたことからバディ・リーとともに犯人捜しに乗り出すことに。

 かくして二人はアイザイアに殺しの脅迫状を送ってきた反体制派グループの事務所やデレクの勤め先に押しかけ、力ずくで情報収集を始めるのだった。もっとも下手人のバイカーギャングは早い段階で明かされ、敵味方の構図は至ってシンプルというべきか。では読みどころはどこかというと、まず二人の父親の葛藤劇。

 男の世界を生きてきた彼らは息子たちを愛しながらも同性愛者であったことが受け入れられず、その懺悔と贖罪の言葉が随所で溢れだす。

 そして人種や性(LGBТQ+)、階級差別に対する問題の提起。物語の舞台は南東部ヴァージニア州リッチモンド。ずいぶん状況はよくなったとはいえ、まだまだ差別感情の根強い土地柄だ。そこを生き抜く弱者たちの抵抗劇の妙。さらに主役二人の相棒劇の妙。とりわけ「ОK牧場の決闘」のドク・ホリディを髣髴させる、減らず口のバディ・リーが印象的だ。血腥い暴力劇だが、クライムノベル・ファンならずとも必読!

新潮社 週刊新潮
2023年3月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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