『サイボーグになる』キム・チョヨプ/キム・ウォニョン著(岩波書店)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
わたしたちの目には知らないうちにたくさんの鱗(うろこ)がくっついている。耳には綿が詰まり、小さな声を聞き漏らすことが多い。当たり前だと思っている世界を時折見直すこと。この本は、わたしとは違う世界の見方や考え方を教えてくれた。
小説家で聴覚障害を持つキム・チョヨプと、弁護士、作家、パフォーマーとして活躍する骨形成不全症のキム・ウォニョンによる共著。柔らかく真(ま)っ直(す)ぐな言葉で、障害者として生きるとはどういうことか、世界と自分の距離、人々が障害者に押しつける優しくて残酷なイメージ、テクノロジーがそれをどう変えていくのかが語られる。
「障害は根絶すべきもの、人以上の能力を持つ輝かしいトランスヒューマンにいつかあなたもなれる、それまで辛(つら)いだろうけれど我慢して」。一方的な温情に溢(あふ)れるヒューマニズムに触れる度、「不完全な自分」をつきつけられたふたりがどんな思いをするのか。
健康な人、自立した人、病を抱えた人、弱い人、全ての人に居場所があり、支え合って生きる社会。それこそが本当に目指すべき未来なのかもしれない。牧野美加訳。