『11文字の檻 青崎有吾短編集成』青崎有吾著(創元推理文庫)
[レビュアー] 小川哲(作家)
思想犯に国家称賛の「刑」
敵性思想の持ち主だと認定され、白い壁に囲まれた部屋に閉じ込められた語り手の縋田は、政府が定める「十一文字」の正解を《解答欄》に記入するまで、この施設から出ることができないと告げられる。その「十一文字」は、「政府に恒久的な利益をもたらす」ということと、日本語であるということしかわからない。
舞台は架空の独裁国家である日本だ。そこでは、国家の方針に反する思想を持った人物は逮捕され、この「十一文字の檻(おり)」に収監される。思想犯たちは「政府に恒久的な利益をもたらす十一文字」について、朝から晩まで考えることになる。正解を出すことができなくても、優れた文を作れば広報紙の見出し等に採用され、報奨が与えられる。その制度のせいで、単に国家を称賛するフレーズをひねりだすことが思想犯の目的となっている。「思想犯に大本営発表を考えさせる」というグロテスクなシステムが、この作品の緊張感を生み出している。
「十一文字の檻」に入所した縋田は、ほとんど無限通りに存在する「十一文字」の組み合わせの候補を論理的に絞っていく。その手際と考え方が鮮やかで、「十一文字」の答えに迫っていく様子はきわめてスリリングだ。これまでにあまりないタイプの謎解き小説で、「閉鎖空間最善手ミステリ」と名付けたい。
本書は短編集だ。福知山線脱線事故を扱った小説「加速してゆく」や、二人に関わった者は全員死ぬ、という姉妹に会いにいく話である「恋澤姉妹」など、表題作に匹敵する素晴らしい作品が収録されている。巻末の著者解説によれば、収録作のほとんどはもともとアンソロジーや企画のために書かれていたようで、著者の企画理解力と、作品の質の高さに感動する。どんなに無茶なお題でも、面白い作品を書いてくれそうだ。よく冗談で「小川」という苗字(みょうじ)の作家を集めてアンソロジーを組みたい、という話をしているのだが、青崎さんも参加しませんか?