男性は「生理痛をナメてる」 50歳になった「博多大吉」が生理の本を出そうと思った理由とは?

対談・鼎談

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ぼくたちが 知っておきたい生理のこと

『ぼくたちが 知っておきたい生理のこと』

著者
博多大吉 [著]/高尾美穂 [著]
出版社
辰巳出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784777828982
発売日
2022/10/07
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

男性は「生理痛をナメてる」 50歳になった「博多大吉」が生理の本を出そうと思った理由とは?


「博多華丸・大吉」の大吉さん

生理について、理解できていると言える男性はどれだけいるだろうか。不用意な発言をして、女性を怒らせた覚えがある人も少なくないだろう。

昨今はテレビなどで生理の特集が組まれるようになり、以前よりはタブー視されることはなくなってきた。ただ、それでも生理について人前で話すことをためらう人は多いだろう。男性の中には、家族や恋人のために生理用品を購入することが恥ずかしいという人もいるのではないか。

そんな中、お笑いコンビ「博多華丸・大吉」の大吉さんが 産婦人科専門医の高尾美穂さんと「生理」をテーマに語り、学んでゆく本『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)が出版された。生理のメカニズムから生理痛や閉経、さらには社会的な課題まで生理について語りつくした一冊となっているという。

生まれてこのかた、生理の知識を深めることのないまま50歳になったという博多大吉さん。 以前は、生理痛で休みたいという声に「怠けているだけでは」と思うなど、「生理痛をナメてる」節があったという。 そんな大吉さんが、なぜ今、生理についての本を出したのだろうか。

(以下は『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』をもとに再構成したものです)

長い間、生理を「まったく知らなかった」

大吉さんが育った家庭には母と姉がいて、本来は生理が身近だったはずが、実際は違っていたという。ナプキンが目に入ったこともあるというが、何かのときに母から「知らなくていい」と言われたそうで、子どもながらに「ふれてはいけない」空気を察知していたという。

大吉:ぼくは長い間、生理のことは「まったく知らなかった」と断言していいでしょうね。といっても、女性に生理という現象があることは当然、10代のときから知識として持っていました。でも、それ以上の理解がむずかしいんです。生理のとき身体のなかで具体的にどんなことが起きているのか、女性はそれをどう感じているのか……考えたこともなかったです。

高尾:男性にとって生理がどれだけ身近かを考えるとき、家族構成が大きく影響してくると思います。息子しかいない家庭では、ナプキンなどの生理用品をほかの家族の目にふれないよう気を付けているお母さんが少なくないし、自分だけでなく娘にもそう教えている事もああるようです。

では女性が多い家庭では生理がオープンかというとそんなことはなく、女性同士は話すけど、そこは男性が入れない領域になっているのだとか。

大吉さんのように、男性にとって生理が「あることはわかっているけど、どういうものかはまるで見えない」という感覚になってしまうのも不思議ではない。

そんな大吉さんが本を出版するきっかけになったのは――?

きっかけは“朝の情報番組”

大吉:ぼくらのコンビ「博多華丸・大吉」は、2018年からNHKの情報番組「あさイチ」のキャスターを務めています。女性の視聴者が多いこともあり、「生理」や「更年期」がたびたびテーマとして取り上げられ、ぼくも番組をとおして生理や更年期のことを知るようになりました。

その中で、「これは男性も知っておいたほうがいいぞ」と気付いたのです。生理にまつわるさまざまなコミュニケーションのズレは、男性に知識がなく想像力が欠如していることが一因だと思えたからです。

生まれてこのかた、生理の知識を深めることのないまま50歳になったぼくが男性代表みたいで、なんだか申し訳ない気持ちもありますが、この本を通し、少しでも多くの男性に生理のことを知ってもらえたらと思っています。

知識不足による、コミュニケーションのズレにはどんなものがあるのか。本書では、SNSで実施した男女約480名へのアンケートの結果を紹介している。致命的ともいえる、男女間のズレを見ていこう。

「生理でつらい」と伝えたら「じゃあできないね」と言われた

女性を対象とした「パートナーに『生理でつらい』と伝えたときに、言われて(されて)いやだったことはありますか?」という質問への自由回答には、怒りや諦観の込められた声が並んでいる。

・「からんでこないでね」と言われた(ゆうこさん・30代)

・「じゃあできないね」と言われて引きました(もちもちこさん・40代)

・「できないなら口でして」(こまつなさん・20代)

大吉:思い切って打ち明けると、ぼくも若いころ、デートの相手から“いざというとき”に「今日は生理だ」と言われて「な~んだ」って落胆したことがあるんですよ。多くの男性が一度や二度ならずそういうことがあったんじゃないかな。

高尾:期待していたのに“ガッカリ”というパターンですね。もうひとつ言うと、「生理中は妊娠しないから、避妊の必要なし」という誤解も多いですよね。

まず、生理中なら妊娠しない=いわゆる「安全日」というのは誤解です。たしかに、生理が起きているということは子宮内膜がはがれ落ちていることを意味するので、妊娠の可能性は低くなります。ただ、可能性が低いだけで「0」ではありません。妊娠を希望しないなら、生理中でも避妊はマストです。

経血は子宮から膣へ流れるほか、卵管へも流れますので、生理のときに行為 をして男性側 から女性の膣に雑菌が持ち込まれると、雑菌が経血とともに子宮、卵管、お腹へと運ばれていく。その結果、お腹で炎症を起こすこともあります。腹膜炎です。すごく痛いんですよ。生理中の行為 にはこうしたリスクがあるので、おすすめはしません。もし、するとしたらコンドームは必須!

また、血液にふれること自体が病気に感染する可能性のあることなので 、男性にとってもリスクを高めかねないという。


産婦人科医の高尾美穂さん

コミュニケーションではなくセクハラ

生理について、女性を不快にさせる言動をしているのはパートナーに限らない。「職場や学校などで、男性から生理について不快・不適切な言動を受けたことがありますか?」という質問には、次のような声が集まっている。

・「生理中の女性ってめんどくさい」 と言われた(港のよーこさん・30代)

・上司に「生理痛くらいで」と言われた(Yさん・40代)

・「においで生理だとわかる」と言われた(まめさん・30代)

高尾:女性は経血のにおいも気にしますね。経血は血液なので独特の鉄っぽいにおいはあります。でも婦人科の診察で内診台に上がったときに、私たち医師が気づくことがある程度です。普通に生理用品を使って、ショーツをはいて、洋服を身に着けていたら、ほかの人が察知するほどにはにおわない。ご本人にもそう伝えるのですが、一度気になるとなかなか打ち消せないみたいですね。

大吉:アンケートで「においで生理だとわかる」と言われた、というエピソードがありましたが、仮にわかったとしても、それを口に出していうのは……。

高尾:セクハラですよね。デリカシーが欠けています。

“普通”の会話を心がけて

大吉:セクハラやモラハラにあたる発言も、結局のところ男性が生理の痛みやしんどさをかなり低く見積もっているからでしょうね。もちろん、知らなければ何を言ってもいいというわけではないですけど。

高尾:生理がつらくていろんなことをあきらめてきた女性はたくさんいますけど、それが見えていない。人生にかかわるケースもありますよ。仕事の選択の幅が狭まったとか、大事な試験の日に生理がきてしまって実力を発揮できなかったとか。根性や気合ではどうにもならないほどつらい人もいますからね。

大吉:やりたいことをあきらめないといけないほど、しんどいってことですね。そのつらさについて想像力を働かせる努力はしますが、男性が同じしんどさを体験することはできないし、それでわかったような気になるのも違うと思っています。となると、「女性は生理があるから、しんどいんだ」というのをベースに考えるのはどうでしょう? 月に10日間しか元気な日がない人もいれば、あまり体調に変化がないという人もいますけど、しんどい人のほうに合わせるんです。

高尾:なるほど、「この人は元気に見えるけど、ほんとはしんどいのかもしれない」という前提だと、接し方も変わりそうですね。ひとりの女性のなかでも、調子の悪いほうの日をベースに考えるといいかもしれません。

大吉:ぼくは「どんなふうに痛いのか」もですが、それ以上に「いま何をしてほしいと思っているのか」ってことを知りたい。

高尾:生理だからといって、特別な会話をしようと思わなくていいんです。もしパートナーの食欲が何日も落ちていたら「一度病院に行ってみたらどう?」と声をかけますよね。“食欲不振のつらさを自分は体験したことがないから声をかけられない”という発想にはならない。生理であろうがなかろうが、普通の会話を心掛けたいですね。

 ***

生理はプライベートであり個人によって差もあることだから、対応に頭を悩ませることがあるかもしれない。それでも、性別にかかわらず生理について知り、苦しんでいる人には寄り添う努力をしていくことが大切なのだろう。

博多大吉(はかた・だいきち)
お笑いコンビ「博多華丸・大吉」。吉本興業所属。1971 年生まれ、福岡県出身。NHK「あさイチ」司会。コンビではTHE MANZAI2014 優勝、単独では2015 年IPPON グランプリ優勝。NHK 「あさイチ」や日本テレビ系列「人生が変わる1 分間の深イイ話」の生理特集では、的を射た発言に世の女性たちから賞賛の声が寄せられた。

高尾美穂(たかお・みほ)
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。著書に『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』( 世界文化社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』( 講談社) など。NHK「あさイチ」などメディア出演多数。トレードマークのヘアスタイルは絵本の「タンタン」がモチーフ。

辰巳出版
2023年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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