『いちじくのはなし』
書籍情報:openBD
【児童書】『いちじくのはなし』しおたにまみこ作
[レビュアー] 田中佐和(産経新聞社文化部)
■海外受賞作の続編
舞台はとあるキッチン。「おはなしかい」が催されると聞いて集まったたまごやお菓子たちの前に、いちじくが現れる。彼が武勇伝として語る壮大な冒険物語に聴衆は胸を躍らせる。一方で、リアリストのマシュマロが水を差すようにところどころで話の矛盾点をつき、そして言う。「あのいちじく、ちょっとへんだとおもうんだ」
聴衆は、いちじくが自分たちをだまそうとする悪意ある「ほらふき」ではないかと疑いの目を向ける。だが、いちじくが語ったのは皆を楽しませるためのファンタジーではなかったか。全ての「嘘」が悪なのではなく、嘘には想像力を刺激し世界を広げるというポジティブな一面もあるのだと考えさせられる。
世界最大規模の絵本原画コンクール「ブラチスラバ世界絵本原画展」金牌などを受賞した作品の続編。果物の柔らかな質感や、ろうそくの炎の温かさまで感じられるような繊細な鉛筆画が魅力的。いちじくの重たげなまぶたからのぞく感情を読み取れない、ちょっと謎めいた目にも引き込まれる。(ブロンズ新社・1210円)
田中佐和