変えるより変わる「決別」のドキュメント
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
中川淳一郎『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』のテーマは、様々なものとの「決別」である。ただし、「誰もがこうすべきだ」と説くわけではない。「私はこう考え、こう実行した」という報告であり、同時進行ドキュメントだ。
東京でネットニュース編集者として活躍していた著者は、2020年11月に「セミリタイア」を宣言して佐賀県唐津市に引っ越した。それは単なる移住ではなく、「負担の少ない人生を送るための決別」だった。
まず元々の専門分野であるインターネットを捨て去った。ネットはあくまでも「ツール」として使うのが賢い。一定の距離を置くことで「炎上・裁判・メンタル悪化」を回避し、「有意義な時間」を創出することができると言う。
次にマスクが象徴するコロナ社会だ。国民が選んだ政治家ではなく、選んでもいない「専門家」が権力を握る、いびつな構造。「感染症撲滅」を夢見て国民に犠牲を強いる社会への決別だ。しかも自分の頭で考えない人々は、それを「犠牲」だと自覚していない。
さらに都会とも決別する。人間関係をリセットでき、異なる価値観と出会う。地方には大抵のものが揃っている上、混雑はない。そんなメリットだけでなく、東京に陣取る大メディアが「空気」を作る日本では、全体主義は都会から始まることを痛感したと著者。
大切なのは自分の快適な人生であり、「他人を変えるより、自分が変わる方が圧倒的に簡単」は至言だ。