『未来倫理』戸谷洋志著(集英社新書)
[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)
地球の温暖化対策が世界中で緊急度を増してきている。日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて具体的な政策が示され、省エネ機器の開発や排出権取引の仕組みなどが議論されている。しかしどこか表面的で、大切な議論が欠けているような気がずっとしていた。その正体がやっと分かった。まさに本書のタイトルにある「未来倫理」であった。
なぜ今の便利な生活を制限してまで、未来に対して責任を負わなければならないのか。しかも途上国からすれば、なぜ自国の責任ではないのに負担を押し付けられるのか。この根本的な疑問に対して、我々はどう答えればよいのだろうか。こうした問題を正面から議論し、世界でその考えを共有できなければ、カーボンニュートラルの達成は難しいだろう。本書ではその回答となる倫理的指針を六つ紹介している。契約説、功利主義、責任原理など、それぞれの特徴が比較説明されており、考え方の違いがとても興味深い。結局、倫理教育やコミュニケーションが何よりも大事だということを改めて考えさせられる一冊である。