『歴メシ!決定版 歴史料理をおいしく食べる』遠藤雅司著(晶文社)/『バウムクーヘンの文化史 パン・料理・菓子、越境する銘菓』三浦裕子著(青弓社)

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バウムクーヘンの文化史

『バウムクーヘンの文化史』

著者
三浦 裕子 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784787220974
発売日
2022/12/20
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

『歴メシ!決定版 歴史料理をおいしく食べる』遠藤雅司著(晶文社)/『バウムクーヘンの文化史 パン・料理・菓子、越境する銘菓』三浦裕子著(青弓社)

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

レシピ解読 味わう年輪

 旅先で料理の本を買うのが好きだ。英語、スペイン語、フランス語、中国語くらいならなんとか読める。料理に使う材料や道具、動詞は限られているし、レシピはどれも決まったプロトコルがあるから解読しやすいのだ。

 各国の料理の本を見ながら、似ている箇所や、思わぬ違いを発見するのも楽しい。料理で世界旅行をしているような気分になれる。

 この2冊はそんな料理本の新たな、縦方向の楽しみ方を教えてくれた。

 『歴メシ』のキャッチコピーは「食べてタイムトラベル」。資料や文献、時には粘土板からレシピを再現し、今の時代でも作りやすく、食べて美味(おい)しいようにアレンジしている。中にはドライフルーツとニンニクの入ったお焼きのような、味の想像がつかないものも。気になるレシピにチェックを入れていったら、わたしは古代ローマ、カエサルさんと食の好みが合いそう。

 本の後ろ半分はそのレシピにまつわるエッセー。文化風習、歴史、レシピ解読の苦労など。もう絶滅してしまったハーブなんかも出てきて、読み物としても面白い。

 『バウムクーヘンの文化史』も丁寧な調査が素晴らしい。バウムクーヘンと言えば、薄い層が重なった焼き菓子。日本で大人気のあの菓子が、どこで生まれ、発展し、そして日本に渡ってきた後どう進化したかを、レシピの解読や材料の考察から掘り起こしていく。

 バウムクーヘンの起源は古代ギリシャ、オベリアスと呼ばれる棒に巻き付けて焼いたパン(あんまり美味しくなかったらしい)。それから香辛料で色や風味をつけた生地を紐(ひも)状にして棒に巻き付ける菓子となり、板状になり、液体の生地となり、ついに砂糖が加わって今のわたしたちがよく知るバウムクーヘンに近くなる。

 実に壮大なバウムクーヘンの歴史。これからバウムクーヘンを食べる時は年輪一層ごとに歴史の重さを噛(か)みしめることになりそうだ。

読売新聞
2023年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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