『絵画の素 TOPICA PICTUS』岡崎乾二郎著(岩波書店)

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絵画の素

『絵画の素』

著者
岡﨑 乾二郎 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784000615150
発売日
2022/12/01
価格
5,500円(税込)

書籍情報:openBD

『絵画の素 TOPICA PICTUS』岡崎乾二郎著(岩波書店)

[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)

 「この木が君にはどう見える?」。ゴーギャンの言葉に触発されたセリュジエは、緑・黄・紫などの色面構成の風景を描いた。同作は《タリスマン(護符)》として崇(あが)められ、抽象画の先駆となった。本書ではこのトピカ(思考の原点)を手始めに、制作にまつわる様々な逸話が綴(つづ)られる。

 岡崎は戦後を通じて抽象画とその力を問い続ける画家である。「絵の具は画家の言葉であり、絵の具を通して(中略)話ができる」。古今東西の絵画を紐解(ひもと)きながら自身の色面抽象が生成する素(もと)が解き明かされる。

 西洋絵画はルネサンス期以降、自然の再現を目指したが、19世紀半ば以降、写真の登場により再現性の任を解かれ、抽象表現の可能性が開かれていった。

 イメージが氾濫する今だからこそ、絵画とは何かという問いに耳を傾けたい。文学論、造形論を織り交ぜて、多様な造形と自作との思いがけない関係が綴られる中で、著者の抽象画は、光と四元素がみなぎる小宇宙として立ち現れる。カンヴァス仕様の装丁内部に封じ込められた言葉と絵画の親密な関係を存分に堪能したい。

読売新聞
2023年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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