『日本の歴史問題 「帝国」の清算から靖国、慰安婦問題まで』波多野澄雄著(中公新書)

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日本の歴史問題 改題新版

『日本の歴史問題 改題新版』

著者
波多野澄雄 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121027337
発売日
2022/12/20
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

『日本の歴史問題 「帝国」の清算から靖国、慰安婦問題まで』波多野澄雄著(中公新書)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

 解決の兆しが見えた日韓徴用工問題に象徴されるように、歴史問題は今や日本外交の中心的な課題である。本書は政府が支援する歴史事業に数多くかかわってきた外交史研究の第一人者が、戦後日本の歴史問題を概観したものだ。靖国や慰安婦といった個別の事例を掘り下げるのみならず、日本政府が「過去」に対していかに向き合ってきたかを戦後外交の大きな潮流の中に位置付けている。

 日本の歴史問題は突如浮上したわけではない。サンフランシスコ平和条約を中心とする戦後処理の枠組みのなかで、日本は賠償や経済協力を通じて国家間和解を進めてきた。だが、そこからこぼれ落ちた戦争被害者の慰霊や補償、また近隣諸国の被害者への個人補償問題などが、冷戦終結と自民党支配が揺らぐなかで噴出してきた。

 歴史問題は国民感情にかかわるゆえに解決は容易ではない。また領土などの他の争点とも結びつきやすい。それゆえ、歴代政権は国内外の秩序を揺るがせないように管理に苦心してきた。歴史問題の経緯を知り、解決の道筋を考える上で欠かせない一冊である。

読売新聞
2023年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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