『DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂 (原題)DEEP PURPOSE』ランジェイ・グラティ著(東洋館出版社)

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DEEP PURPOSE

『DEEP PURPOSE』

著者
ランジェイ・グラティ [著]/山形浩生 [訳]/鵜澤慎一郎 [解説]
出版社
東洋館出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784491051529
発売日
2023/02/17
価格
2,310円(税込)

書籍情報:openBD

『DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂 (原題)DEEP PURPOSE』ランジェイ・グラティ著(東洋館出版社)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

利益と社会貢献 両立挑む

 2019年にそれまで株主第一主義の総本山であったアメリカの有力経済団体が「企業のパーパス(存在意義)についての声明」を発表し「我々は全てのステークホルダーに価値を提供する」と宣言したことが世界中に大きな驚きを与えた。背景には気候変動、環境破壊、人権、格差などの社会問題への意識が高まる中、企業は株主の利益だけを見ればよいという考えはもはや通用せず、長期的な企業価値をあげるためにも多様なステークホルダーの利害に目配りすべきであるという危機感があったからに違いない。

 ただパーパス経営を掲げる企業が世界中で増える中、多くの経営者はパーパスを単なる「ツール」、すなわち外に向けては「ブランド構築と評判改善の手段」として、社内向けには「従業員の熱意を高めるための手段」としてのみ考えており、それらは単なる広報活動のための「都合のいいパーパス」だというシニカルな批判を生んでいると著者は言う。

 だがパーパスに基づき、経済価値と社会的価値の両立を極限まで追求しようと真剣に取り組む「ディープ・パーパス企業」は確かに存在する。本書ではペプシコやマイクロソフトなど約20社の先進事例を紹介しつつ、ステークホルダー間の利害調整、パーパス起点の戦略立案、会社の歴史との紐(ひも)付け、従業員への浸透策、個人のパーパスと組織のパーパスの一体化などの具体的なアクションを解説する。同時にこれらパーパスの深掘りは「かみそりの刃の上を歩く」ほど難しい課題だとして、経営者に覚悟を迫るのだ。

 高邁(こうまい)なパーパスを掲げながらも収益を優先した結果、ヘイトスピーチや誤情報を放置し続け非難を浴びたFacebook(現Meta)などを見るにつけ、いかに難しくともパーパスとは何かを徹底的に考え実行しないと、もはやその企業の存在価値が疑われる世の中になったのは明らかだろう。パーパス経営を深く理解し、その実現に踏み出せと鼓舞する本書は経営者のみならず、「何のために働くのか?」を考える全ての企業人必読の書である。山形浩生訳。

読売新聞
2023年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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