『プーチン ロシアを乗っ取ったKGBたち(上)』
- 著者
- キャサリン・ベルトン [著]/藤井清美 [訳]
- 出版社
- 日経BP 日本経済新聞出版
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784296115211
- 発売日
- 2022/12/20
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
『プーチン ロシアを乗っ取ったKGBたち(下)』
- 著者
- キャサリン・ベルトン [著]/藤井清美 [訳]
- 出版社
- 日経BP 日本経済新聞出版
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784296116164
- 発売日
- 2022/12/20
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
『プーチン ロシアを乗っ取ったKGBたち 上・下 (原題)PUTIN\'S PEOPLE』キャサリン・ベルトン著(日本経済新聞出版)
[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大講師)
異例出世支えた闇権力
ロシアのプーチン大統領については、既に多くの書物が出版されている。批判的なものも好意的なものも含めて、とても読みきれないほどだ。英フィナンシャル・タイムズ紙の特派員として長らくロシア報道に携わってきた著者による本書は、そうした中にあって異色の輝きを放つ。
著者が多くの関係者へのインタビューを通じて描き出すところによれば、社会主義体制に未来がないと早くから気づいていた国家保安委員会(KGB)は、社会主義陣営の崩壊後に備えた秘密工作を1980年代から開始していた。来るべき新たな権力層の中に協力者を獲得するとともに、ソ連の莫大(ばくだい)な国有資産を西側諸国に逃すというもので、プーチンは駐在先の東ドイツでこの工作に携わっていたというのである。
したがって、ソ連崩壊後にプーチンが故郷サンクトペテルブルクの副市長に就任したこと、そこでマフィア組織と結託して巨大な港湾利権を手に入れたこと、のちに大統領府入りしてスピード出世を遂げたことなどは、彼個人の物語というより、旧KGBによる権力掌握計画の一環という性格を強く帯びていた。本書の眼目は、こうした巨大な権力構造の中にプーチンを位置付けようとする点にある。
ただ、プーチンを権力の座に、とりわけ大統領にまで押し上げた「KGBの男たち」が具体的に誰なのかは曖昧にされており、この点は今後の議論の対象とされよう。それでも著者の取材がプーチンの権力について多くの新事実を暴き出すものであることには変わりはない。
また、2022年に始まったロシアのウクライナ侵略に際しては、銀行家のコヴァルチュクやパトルシェフ国家安保会議書記らの影響が指摘される。本書はこうした人々がプーチンとこれまでどのような関係を築いてきたのかについても光を当てており、この点からもロシア理解の解像度を上げる労作と言えよう。藤井清美訳。