『作家たちの手紙』マイケル・バード/オーランド・バード著(マール社)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
ぺらっとめくって目に飛び込んできたのが「『サタデー』でテスの書評を書いたのが誰か、心当たりはないだろうか」という、作品を酷評されたことへの憤り。書いたのはトマス・ハーディ。ノーベル文学賞に12回ノミネートされたイギリスの誇る大作家(でも受賞ならず)。
この他にも、お金の無心や熱烈な愛の言葉、愚痴、痛切な別れの言葉、死を覚悟した最後の一言、小説のプロット、小さな息子への童話等々。
汚い字、どんどん斜めになっていく行、味わいあるイラスト、インクの染み、誤字脱字、ちぎり取ったノートの切れっ端……みんな人間だ。当たり前だけど。
それにしても作家も詩人も、自分の手紙がまさかこうやって公開されるとは思っていなかっただろうなぁ。申し訳ないな、と思いつつその覗(のぞ)き見の楽しさもちょっぴり。沼野充義監修。