日本軍による占領統治が迫る先の大戦前夜の香港。それぞれに秘めたる過去をもつ日本、英国、中国の男3人がペニンシュラ・ホテルに集い、広東料理を食し、語り合う。そのうちに歴史はめまぐるしく動き始めて…。戦火に翻弄された3人の交流を見つめた表題作と、その20年後を描いた作品からなる小説集。
国や利害も異なる男たちの間に芽生える確かな友情、そして人間として譲れない誇りが巧みにすくい上げられていて、胸を打つ。同じく戦時下を舞台とした著者の名作『名誉と恍惚(こうこつ)』を想起させる。哀切なハードボイルドタッチの物語。(講談社・1980円)

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2023年3月19日 掲載
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