<書評>『面会交流と共同親権 当事者の声と海外の法制度』熊上崇、岡村晴美 編著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

面会交流と共同親権

『面会交流と共同親権』

著者
熊上 崇 [著、編集]/岡村 晴美 [著、編集]/小川 富之 [著]/石堂 典秀 [著]/山田 嘉則 [著]
出版社
明石書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784750355207
発売日
2023/01/13
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『面会交流と共同親権 当事者の声と海外の法制度』熊上崇、岡村晴美 編著

◆別居親の暴力から子守る

 二〇一七年一月に長崎市で二歳の息子の面会交流の際、母親が元夫に刺殺された。同年四月には兵庫県伊丹市で面会交流中に父親が四歳の娘を殺害して自殺した。その報道に接した時、日本でもこの問題が起きるようになった事に戦慄を覚えた。一九八〇年から約二十年間、米国で虐待・DVの分野で仕事をした評者にとって、この問題が米国の子どもたちの安全と福祉を脅かしてきたことは周知の課題だった。離婚後の面会交流等に起因する親による子どもの殺害事件は、全米で年平均六十件余が起きている。

 本書の代表編者熊上崇は、家庭裁判所での十九年間の調査官勤務経験から、紛争度の高い離婚で、面会交流をしたくない子どもの要望が無視されてきたこと、同居親の不安や恐怖が十分に聞かれないことを憂慮してきた。裁判所の面会交流が、子どもと同居親にとってどのような体験だったかの調査と生の声を集めた本書の後半は、他にはない当事者の貴重な証言である。

 法務省の法制審議会は離婚後の子の養育に関する制度の見直しを進めている。欧米並みの共同親権を、と法改正を求める活発なロビー活動は共同親権制度になれば離婚後の争いがなくなると理想化するが、本書では離婚事案の現場にいる弁護士、医師らが、争いはむしろ激化し、子どもが傷つくことへの警鐘を鳴らす。

 本書前半の小川富之ら法律家は、共同親権制度を推進してきた欧米諸国が子どもの命が別居親によって危険にさらされる事件の多発に直面して、法改正を余儀なくされていることを論じている。小川論文は、民法七六六条「離婚後の子の監護に関する事項」を持つ日本の現行法は、親権者とならなかった親が監護者として共同で子育てをする権利を保障しているゆえに、欧米の共同監護とほぼ同じで、法改正の必要がないことを明らかにしている。

 三組に一組が離婚する今日、膨大な数の人々に影響を及ぼす重大テーマだ。欧米諸国と同じ轍を踏まないためにも、問題の本質を知り、子どもの声に耳を傾けよう。

(明石書店・2640円)

熊上 和光大教授、元家庭裁判所調査官。

岡村 弁護士。

◆もう1冊

梶村太市・長谷川京子・吉田容子編著『離婚後の子どもをどう守るか』(日本評論社)

中日新聞 東京新聞
2023年3月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク