世間に背を向えていい気持ちになっている連中へ

レビュー

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オルタナティブ

『オルタナティブ』

著者
永野, 1974-
出版社
リットーミュージック
ISBN
9784845638666
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

世間に背を向えていい気持ちになっている連中へ

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 オルタナティブとは「既存・主流のものに代わる何か」との意味なんだが、芸人・永野がオルタナティブロックを中心とした音楽を語るこの本を読むと、彼がオルタナティブ=反主流側の人間だとわかる。ただし、彼がややこしいのは反主流の中でもさらに反主流のポジションなことで、持ちネタの「ゴッホより普通にラッセンが好き」からもよくわかる。

 なので、基本こんなことばっかり言いまくっているわけなのである。

「はっきり言います。マネーイズパワー」「自分は東京に出て来てから急に貧乏になって徐々に『金は汚いと吹聴して素朴な人達を操る人間』のことを詐欺師のようだと思うようになりました。昔は実家でお腹を満たしながら呑気に金は汚いとか言ってましたが、お金がなくなって本当に滅茶苦茶苦労して、『金じゃない』なんて綺麗事、何の意味もない絵空事だという結論に達しました。だから売れると思ってラッセンをやったし、今でも誇りに思ってます。今ははっきり金が一番大事だと思っています。愛が全てお金じゃないって謳う割にお前の劇団は高いチケット代を知り合いにまで売りつけて商売してるだろってことです」「だから、いつまでも『金は汚い』と人に言い続ける奴より、金持ちになって満足して言うことがなくなる奴のほうがリアルでオルタナを感じます」

 世間に背を向けるのではなく、世間に背を向けていい気持ちになっている連中に糞を投げつけるような発言ばかりなので読後感は全然良くない。でも、それが永野なのである。

 実は先日、この本の発売記念イベントを一緒にやらせてもらったんだが、「自分の話なんかしたくない」「いいから本を読んで」「それより何か面白い話をして!」といきなり言い出して、そこからは彼が聞き役になって物騒な話ばかりをボクに語らせまくる謎展開に! 人に地雷原を走らせて楽しそうに笑っていたのも、いちいち永野なのであった。

新潮社 週刊新潮
2023年3月30日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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