キムタク出演の超大型国際ドラマの原作は“ピンク色ゴカイ”が暴れる破滅一直線のハリウッドSF!

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  • 深海のYrr〔新版〕 1
  • LIMIT〈1〉
  • NSA 上

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あの超大型国際ドラマの原作はピンク色ゴカイが暴れる破滅一直線の現代SF!

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

“ドイツで『ダ・ヴィンチ・コード』からベストセラー第1位の座を奪った驚異の小説”――2008年、そんな売り文句で上陸したフランク・シェッツィングのSF大作『深海のYrr』(北川和代訳)が、全4巻の新装版で復活した。

 理由は、「木村拓哉出演! 迫力の超大型国際ドラマ」「エミー賞受賞プロデューサーが贈る超大作!」の新帯を見れば一目瞭然。「THE SWARM」として、全8話のドラマになったのである(hulu配信)。

 ピンク色したゴカイの大群が海底でメタンハイドレート層を食い荒らす魅惑的な導入から、小説は破滅SF一直線。世界各国からスカウトされた科学者が空母に集結し、人類滅亡の危機を乗り切るために対策を練る話が本筋になる。中でもSETI研究員の活躍に乞うご期待……と書くとネタバレか(まあ、ドラマの予告映像ではもっとストレートに明かしてるけど)。

 ハリウッド小説スタイルを採用しながら、ギリギリ現代SFとして成立するネタで収束させるのもすばらしい。ドラマ視聴前にぜひ。

 同じシェッツィングの『LIMIT』(北川和代訳、ハヤカワ文庫NV、全4巻)は、資源採掘競争が月面で過熱する近未来サスペンス。月面ホテル開業を前に、全世界の投資家やセレブが招待されて月へと旅立つ。一方、上海では、ネット犯罪調査専門の探偵が思いがけない大事件に巻き込まれる……。話が本格的に盛り上がる3巻までは我慢して読もう。

 ドイツSFの重鎮、アンドレアス・エシュバッハ『NSA』(赤坂桃子訳、ハヤカワ文庫SF、上下巻)は、ITが異常発達した1940年代前半のナチスドイツを描く改変歴史もの。この世界ではプログラムは女の仕事とされ、入門書を開くと料理や編み物の例えばかり。辟易した分析官が女性プログラマに個人授業を頼んだりと、若干のユーモアも交じえつつ、監視社会化が進む現代をナチ時代と重ね合わせる。技術者/科学者の倫理がテーマになる点は、上田早夕里『破滅の王』に近いかも。

新潮社 週刊新潮
2023年3月30日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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