妖術や占星術が登場する謎展開など サッカー中継の実況アナ・倉敷保雄によるとんでもないサッカー小説

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星降る島のフットボーラー

『星降る島のフットボーラー』

著者
倉敷保雄 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575241778
発売日
2019/05/20
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

サッカー実況のカリスマがマイクをペンに持ち替えた。日本代表に今足りないのはこんな選手だ!『星降る島のフットボーラー』倉敷保雄

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 様々な問題が噴出し成立が危ぶまれたカタールW杯も、終わってみれば史上最高の決勝戦との呼び声も高い死闘の末に、メッシが輝かしいキャリアに唯一欠けていたトロフィーを掲げて「大成功」に終わった。

 我らが日本代表はといえば、決勝トーナメント1回戦でクロアチアの前に惜敗。ここぞというところで点を取れる強力なFWがいれば……と歯がみした方も多いのではないだろうか。

 そんな日本のサッカーファンの夢を叶えるような小説がある。長年、海外サッカーの実況アナウンサーとして、その博識と遊び心、なによりサッカーへの愛で絶大な支持を得る倉敷保雄氏が著した『星降る島のフットボーラー』である。

 書評家・細谷正充さんのレビューで『星降る島のフットボーラー』の読みどころをご紹介します。

 ***

 2022年のワールドカップにおける、日本代表の熱戦の感動は記憶に新しい。私もテレビで対クロアチア戦を観ながら、サッカーが日本の人気スポーツになったことを、あらためて実感した。その証拠のひとつが、サッカーを題材にした小説の増加だろう。漫画はまだしも、小説はほとんど無いという状況が長らく続いていた。しかしプロ・リーグが発足し、人気を獲得していくと、徐々にサッカー小説が増えていったのだ。もちろん作者はみんな、サッカー好き。その極めつけといえるのが、サッカー実況のカリスマといわれるアナウンサー・倉敷保雄が2019年に刊行した書き下ろし長篇『星降る島のフットボーラー』である。

 父親の仕事の関係で世界中を転々としながら、サッカーを続けている、ハルこと星野遥也。優れた才能と、仲間のために熱くなれるハートの持ち主だ。作者は第1章で、そんなハルのキャラクターを読者に印象づけた後、彼をプロの世界に送り出す。大西洋に浮かぶ7つの島による天の川リーグに加盟している、エストレージャFCに入団したのだ。

 ハルを含めた4人の新加入により、活気づくチーム。しかし4人は、それぞれに問題や課題を抱えていた。一方で、スコルピウスというチームの新オーナーになったタランチューラ・アルゴルが、何事かを画策しているらしい。ハルの父親の親友で、エストレージャFCのオーナーの天美壮吉は、過去に因縁のあるアルゴルの思惑を潰すため、エストレージャFCとスコルピウスの試合に未来を託すのだった。

 読み出してすぐに、作者のサッカー愛が伝わってくる。迫真の試合描写だけでなく、プロ・サッカーを取り巻く人々の思考と行動が、しっかりと表現されているのだ。サッカーに詳しい読者ほど、ちょっとした部分に感心することだろう。

 さらに登場人物が魅力的。プロ・サッカーの未来を見据えている壮吉と、その娘のリッカこと六花。有能だが新薬を選手で実験しようとするチームドクターの奈良丸明彦。選手の育成に長けた監督の立知花薫……。個性的な面々に囲まれながら、ハルが成長していく様子が、実に気持ちいいのだ。

 ところが中盤になってアルゴルが登場すると、物語のトーンが変わる。審判まで抱き込み反則上等のチームとなったスコルピウスと、あくまでもサッカーで勝負するエストレージャFCの戦いは、まるで熱血少年漫画だ。妖術や占星術まで登場する展開に最初は戸惑ったが、やがて納得できた。作者はサッカーが大好きだが、エンターテインメント物語も大好きなのだろう。だからサッカー小説という器の中に、自分の好きなネタを、ギュウギュウに詰め込んだのだ。

 それでもストーリーが纏まっているのは、すべての要素がサッカーの試合と、ハルの活躍へと収斂していくからである。ハルと一緒になって、喜んだり怒ったりしているうちに、作者の創り出した世界に夢中になってしまうのだ。だから、とんでもないサッカー小説が、とんでもなく面白いのである。

 なお本書が、ドラマ化やアニメ化されることがあったら、試合の実況アナウンサーを、ぜひとも作者にやってもらいたい。きっといつもの名調子を聞かせてくれるはずだ。

※なお、本書の装画&挿絵は『交響詩篇エウレカセブン』のキャラクターデザインで知られる吉田健一氏が担当。本文と併せてぜひお楽しみください。

COLORFUL
2023年1月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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