「殺処分になってしまいますよ」「うちの犬ではないから…」尊い命を守るためにできること

対談・鼎談

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たまさんちのホゴイヌ

『たまさんちのホゴイヌ』

著者
tamtam
出版社
世界文化社 (発売)
ISBN
9784418225064
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

「殺処分になってしまいますよ」「うちの犬ではないから…」尊い命を守るためにできること

[文] 世界文化社


犬猫の保護活動に携わってきたtamtamさん

 多くの犬猫が殺処分されていることが社会問題になっています。

 環境省が発表した令和3年度の『犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(全国統計)』によると、犬猫の殺処分数は14,457頭。そのうちの7,947頭が子犬や子猫だそうです。

 統計によると年を追うごとに引取り数や殺処分数は減っている状況ですが、尊い命が犠牲になっていることに変わりはありません。

 こうした中、行き場を失ってしまった犬や猫を保健所から預かり、里親を探す「一時預かりボランティア」を続けている女性がいます。10年以上にわたり犬猫の保護活動に携わり、その経験を綴ったコミックエッセイ『たまさんちのホゴイヌ』を刊行したtamtam(タムタム)さんです。

 犬や猫にとって残酷すぎる状況が続いている日本――マンガの売上の一部を保護犬の支援活動などを行っている団体に寄付しているtamtamさんは、保護した「その先」についても考えてほしいと訴えます。

 同様に『獣医師が考案した長生き犬ごはん』シリーズの著者である林美彩さんは、「(保護した)その後、どうするか」を考えていない人が多いと言います。

 今回は、保護活動に接する機会のあるお二人に、犬や猫と暮らすことについて語り合ってもらいました。

――保護や愛護という言葉を聞くと、難しい、暗いというマイナスなイメージを持つ人も多かもしれません。しかし、tamtam(タムタム)さんはそういったネガティブな感情を持つのではなく、保護した「その先」を考えてほしいと本に書かれていました。

tamtamさん(以下、T):はい、それは常々私が心がけていることです。

 以前、地元の中学校で講演させていただいたときにも、「保護された犬や猫を悲しい子として見ないでほしい」という話をさせていただきました。

 当時、私と子どもが一緒に歩いているときに、片目がつぶれた子猫を見つけたことがありまして。授業では、その当時の写真を生徒たちに見せつつも、「かわいそうに……」とは絶対に言わず、「じゃあ、次に何をすべきだと思う?」と続けました。そもそも、私たちもその子を見つけたときは、「かわいそう」という気持ちが湧き上がる隙もないほど余談を許さない状況で、「とにかく早く病院に連れて行ってあげなきゃ」と必死だったのですが……。

 つまり大切なのは、瞬時に“どうすればいいか”を考えることと、それを実行する力なのかな、と思いますね。


獣医師の林美彩さん

林美彩さん(以下、H):なかなかtamtamさんのように「実行力」のある人は少ないですよね。私は獣医師なのでそのように保護された犬や猫を診ることもありますが、病院に連れて来ても、「その後、どうするか」を考えていない人が多いのかな、と感じます。自分では面倒みることができないから、いったん保護したものの、その後、保健所に連れていくというケースもありますね……。

T:そのような話は本当によく聞きます。

H:「最悪の場合、この子は殺処分になってしまいますよ」とお伝えしても、「いいです、うちの犬ではないから」って答える方もいらっしゃって……。ですから、tamtamさんのように、幼少期の頃から「命に対する責任」を伝えてゆく活動は素晴らしいと思います。


保護活動をするキッカケは一匹の子猫との出会いから(『たまさんちのホゴイヌ』より)

――犬や猫を飼うにあたり、ぜひ知っておいてほしいことはありますか?

T:はい、犬はあくまで「犬」であることを忘れないでほしいです。私たち人間が手を使うように犬は噛みますし、人が怒るように犬は吠える。また、いわゆる「粗相」をするのも犬の世界では当然のことなんですね。「問題行動」というのはあくまで人間側からの定義であって……。犬にとっては決して「間違い」でないことをわかっていただきたいです。

 そして、犬や猫も家族の一員であることを理解するとともに、時には「外」にアドバイスを求めてみることも大切だと思っています。彼らの行動で精神的にやつれてしまい、飼育を放棄せざるを得ない状態まで追い込まれてしまっている場合も見受けられますが、そうなる前に、周りの方々にアドバイスを求めてみるのもひとつの手です。

H:ドッグトレーナーさんに相談してみるのもいいかもしれませんね。仮に、その人と相性が合わなくても別の方にあたってみればいいですし。とにかく、その子の状態を一番にわかってあげられるのは飼い主さんなので、じっくり見極めていただきたいです。また、「行動診療科」を設置している動物病院もありますので、いろんな声を聞くことをおすすめします。

T:私も、ある方から、「妻に攻撃的な猫がいて困っている」という相談を受けたことがありました。その様子をTV電話で見たら、広い部屋にポツリと置かれたケージの中に猫がいて……。これではこの子も不安になると一瞬で思いました。すぐにキャットタワーなどを置いてもらい様子を見たところ、無事に落ち着いてくれて、今では奥さまにもすっかり懐いているそうです。

 このように、ほんの少しの工夫や改善で、犬や猫との生活が楽しくなることは往々にしてあるんです。飼い主さんがいっぱいいっぱいになってしまうのは私も理解をしていますが、そうして結局保健所や施設などに預けることになり、のちのち後悔される方もたくさん見てきました。まずは、大切な家族を手放さなくてよい解決法を考えることが大事です。そのためにも、さまざまな方面から情報を収集したり、アドバイスを求めたりすることがなにより重要だと思いますね。


10年渡る経験と思いとは?(『たまさんちのホゴイヌ』より)

――新たに家族を迎える立場として、保護した犬や猫と暮らすための“心がけ”を教えてください。

T:一概に「犬」「猫」というふうに一括りで見るのではなく、“個体”としてこの子はどういう性格なのか、体質なのか、まずはその子のことをよく知ってほしいです。常に彼らから「学ぶ姿勢」を持つこと、でしょうか。

H:まさに食事の面でも同じことが言えますね。ともすると、我々は“これがいい”と思ったものを犬や猫に押し付けてしまいがちですが、本当にそれが好きなものなのかは、究極的に言えばその子にしかわかりません。まずは、彼らそれぞれの好きなものを知ることから始めてほしいです。

 また、日本で売られているペットフードは食品ではなく「雑貨」扱いなので、一般的な食品のように安全性や品質を規制する細かい法律は現状存在していません。そのことも踏まえて、是非一度、犬猫さんのお食事も根本から見直してほしいと思いますね。

T:林先生に相談してもいいですか? 今、野犬を預かっているんですが、外で暮らしていた子たちなので食が細く警戒心も強いので悩んでいます。何を与えるべきでしょうか?

H:警戒心が強い子には、ハーブを使ってみてはいかがでしょうか? 例えば、カモミールは心を落ち着かせる作用があり、緊張感、不安感、怒りや恐怖感などを緩和してくれます。お料理に使ってもいいですし、お水に少し混ぜてカモミールティーにしたり、ヤギミルクでミルクティー風にするという手も! 水分を取るのが苦手な子には寒天などもいいですね。

T:カモミール! 今度やってみます!

H:あとは、腸の善玉菌を増やすためにぬか漬けもおすすめですよ。目安は、5kgの子で、みじん切りしたぬか漬けをスプーン小さじ1/4ぐらい。精神の安定を図るならばセロリ、体が熱い子ならば、きゅうりがおすすめです!

T:ぬか漬けなんて、考えたこともなかったです! 今はとにかく、「食べる楽しみ」を知ってほしくて奮闘中でして。

H:まずは、「おいしい!」と思ってもらうことが重要ですね。それでいうと、たまに与える分には“ご褒美”的な食事も大切だと思っています。それが犬にとっては生きる糧になりますから。

T:「その子がいちばん幸せになれるように」という想いを常に忘れずに、今日先生から教えていただいたことを早速実践したいと思います。

H:私も、犬猫のために自分ができることの「幅」をこれからもどんどん広げていきたいですね!

 ***

tamtam(タムタム)さん
公益財団法人の保護団体で勤務後、ブリーダー犬舎を経て、保健所から犬猫を預かり里親を探す一時預かりボランティアを続ける。2018年から自身の経験を通した漫画をインスタグラムに投稿して話題に。昨年10月、初の著書となる『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社)を刊行。

林美彩(はやしみさえ)さん
獣医師。大学卒業後、動物病院やサプリメント会社勤務を経て、体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、2018年に往診・カウンセリング専門動物病院「chicoどうぶつ診療所」を開院。 著書に『獣医師が考案した長生き犬ごはん』『獣医師が考案した長生き猫ごはん』『獣医師が考案した一汁一菜長生き犬ごはん』 (世界文化社)がある。

取材・文:橋本優香 編集:宮本珠希

世界文化社
2023年4月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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