歪んだ探偵小説の書き手の一筋縄ではいかない展開

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化石少女と七つの冒険

『化石少女と七つの冒険』

著者
麻耶雄嵩 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198656003
発売日
2023/03/01
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

歪んだ探偵小説の書き手の一筋縄ではいかない展開

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 滑稽さの裏に潜む、辛辣な味わい。麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』は、ユーモラスな学園ミステリに見せかけてブラックな後味をもたらす作品だ。

 本書は二〇一四年に刊行された『化石少女』の続編に当たる連作短編集である。舞台の私立ペルム学園は京都の上流階級の子女が通う伝統ある名門校だ。主人公の神舞まりあはペルム学園の古生物部の部長を務める三年生である。他の生徒と同じく名家のお嬢様だが成績は悪く落ちこぼれで、いつも化石ばかりをいじっている奇人として校内では知られている。古生物部の部員はまりあの他に桑島彰という二年生がいる。彰は実家の関係でまりあのお供をする羽目になり、学園内で起こる怪事件を解こうと探偵の真似事をするまりあに付き合わされるのだ。

 推理を絶対に間違えない無謬の探偵・メルカトル鮎や、“全知全能の神様”を自称する小学生の鈴木太郎など、麻耶雄嵩の小説には常に風変わりな探偵役が登場する。麻耶作品の特徴は、そうした探偵役たちの存在そのものが奇妙な形に推理を捻じ曲げてしまう点にある。本書も同じで、変人の探偵役とそれに振り回されるワトソン役、という一見ありがちな探偵と助手のコンビが、歪な謎解きを披露するのだ。本作では、とある理由から更にその歪さが激しくなっていることに着目したい。

“化石女”と書かれたダイイングメッセージや、縁結びの伝説がある木の傍で見つかった生徒の三つの遺体など、不可思議な事件を描きつつ、古生物部の日常に訪れた様々な変化も書かれている。表面だけなぞれば青春の光景を綴った物語として捉えることも出来るだろう。だが歪んだ探偵小説の書き手である麻耶雄嵩のこと、一筋縄ではいかない展開が待ち受けるのだ。なお、本書では『化石少女』の真相についても触れられているので、未読の方は先に前作を読まれることをお勧めする。

新潮社 週刊新潮
2023年4月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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