『コモンズのガバナンス : 人びとの協働と制度の進化』
- 著者
- Ostrom, Elinor, 1933-2012 /原田, 禎夫 /齋藤, 暖生, 1978- /嶋田, 大作
- 出版社
- 晃洋書房
- ISBN
- 9784771037083
- 価格
- 4,180円(税込)
書籍情報:openBD
『コモンズのガバナンス 人びとの協働と制度の進化 (原題)GOVERNING THE COMMONS』エリノア・オストロム著(晃洋書房)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
資源維持 利害の共有で
「コモンズ(共有地)の悲劇」という言葉はよく知られている。共同で使える放牧地に人々が自分の利益だけを考えて牛を放つと放牧地の草は食べ尽くされてしまう、という形で資源管理の難しさを説く寓話(ぐうわ)だが、よく考えればこの寓話の通りなら人類はとうの昔に資源を使い果たして滅んでいたはずである。実際にはコモンズの悲劇を回避する仕組みが古くから世界各地にあったが、それはどのように機能してきたのだろうか。本書は豊富な事例に基づく制度の研究から、人々が共同で利用する資源であるコモンズが維持される条件を明らかにしている。
女性で初めてノーベル経済学賞を受賞したことでも知られる著者は、多くの条件を前提とするモデルから得られた極端な結論をすぐ現実に当てはめようとする経済学者の思考を批判する。そして水資源や漁業資源などのコモンズの管理に関する世界各地の事例(日本の山梨県や岩手県の山村の事例も紹介されている)、現代のアメリカの事例(カリフォルニア州南部の水道会社や自治体が関わる地下水の管理)を踏まえ、コモンズが持続可能な形で管理される条件を考察している。
誰がコモンズを利用するか決められており、その利用者がルールを設計し、コモンズの利用に監視が行われ、段階的な罰則によりルール違反の制裁が行われる場合、人々はルールに従うことによって長期的な利益を得るため自発的にコモンズを守ろうとするという。もちろんこうした条件が満たされずコモンズが破壊される事例も多いが、一方でコモンズの利用者が情報、利害を共有し互いを信頼することでルールを改善し、全体の厚生を高められることも示されている。
本書の分析の直接の対象はローカルな天然資源であるが、地球環境や国際平和といったグローバル・コモンズが危機に瀕(ひん)している現在、人々の自発的な行動によりコモンズを維持していくための条件を示した本書の内容はさらに重要性を増している。環境のみならず多くの分野で参照されるべき本である。原田禎夫、斎藤暖生、嶋田大作訳。