「ルールを軽やかに破る、かわいい不良に」宮田愛萌と千早茜が語った、小説に対する向き合い方

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しろがねの葉

『しろがねの葉』

著者
千早, 茜
出版社
新潮社
ISBN
9784103341949
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

きらきらし

『きらきらし』

著者
宮田, 愛萌, 1998-
出版社
新潮社
ISBN
9784103549413
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

ルールを破るかわいい不良に


宮田愛萌(左)と千早茜(右)

『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞した千早茜さんと、『万葉集』をモチーフにした初小説集『きらきらし』を上梓した宮田愛萌さん。お二人が互いの作品の魅力を語り合いながら、創作への向き合い方を明かした。

『しろがねの葉』の推しは誰?

宮田 はじめまして。今日はかなり緊張しています。こんなファンに会うって気が重くないかなと。『しろがねの葉』の直木賞受賞、おめでとうございます。本当に嬉しかったです。

千早 ありがとうございます。こちらこそがっかりされないかなって思いながら来ました。よくツイッターでフォロワーの方が「宮田愛萌さんが千早さんの本を紹介していますよ」って教えてくれるんです。

宮田 勝手にブログなどで千早さんのご本について書かせていただいて。『しろがね』も何回も読みました。男性キャラクターの中では誰推しかを編集さんと話していたのですが、私は断然、ヨキ(主人公ウメを引き取った天才山師・喜兵衛に従う影)が好きです。

千早 ヨキ派が一番多いんですよ。

宮田 やっぱり、そうですよね! 千早さんは誰推しなんですか。

千早 私は龍(赤ちゃんの頃からウメが面倒を見ていた年下の青年)派です。花とかくれる穏やかな人が好きです。隼人(ウメとともに育った幼馴染の銀掘)派は意外と少なくて。でも男性からの人気は高いですね。まっすぐな男!みたいなところがいいのかなと。

宮田 隼人も好きなんですけど、推しにするには違うんです。物語の主軸として出てくるキャラとしては最っ高の最高なんですけど、推しではなくて。推しがいがあるほうが好きです。

千早 推しがい……。やっぱりアイドルがお仕事だったから、推す気持ちがわかるのでしょうか。昨日ちょうど、アイドルの方はファンの方の気持ちが想像できるんだろうかという話をしていて。

宮田 私はオタクだったので、どちらかというとファンの方の気持ちのほうがわかります。元々アイドルが好きでなりたいと思ってアイドルになる人が多いのではないかと思います。

千早 そうなんですか。私は人生で生身の人間を推すことがなかったので、推しの気持ちがあまりわからなくて。

宮田 いつでも推しが欲しいタイプと、そうでないタイプとに分かれますよね。

“ブックガイド”宮田愛萌

宮田 『しろがね』はなんで石見銀山を舞台にされたんですか。

千早 偶然旅行で訪れたとき、現地のガイドさんに聞いた、石見の女性は三人の夫を持ったという話に興味をひかれたんです。人生で三人も好きな人を看取るのはどんな感じだろうと思って書きました。今までと異色な作品なので、『しろがね』から入った人が他の作品をどう捉えるか不安はあります。

宮田 でもやっぱり表現とかは千早さんのカラーなので、この雰囲気が好きになったら、全部めっちゃ好きになると思います。

千早 そうですか? これを読んだあとに『男ともだち』とかの現代ものを読んだら「えっ」となりそうで。

宮田 確かにびっくりするかもしれませんね。『しろがね』の次は現代ものにいきなり行くより、『魚神』とかを読むのがいいかもしれないです。

千早 すごい、ブックガイドみたいになってる!

宮田 はい(笑)。ファンの方に、これを読んだんだけど次は何がいい?と聞かれるので、その次はこれかな、みたいな話をいつもしていました。

千早 ありがたいし、心強い(笑)。宮田さんはどの作品が一番お好きなんですか。

宮田 うーん、どれも大好きだから悩みますね……。でも、千早さんのナンバーワンをあえてあげるなら『魚神』です。以前「ダ・ヴィンチ」さんの好きな本を語るというテーマでインタビューを受けた時にも好き勝手に語らせていただきました。

千早 アイドルが勧めるにはなかなかハードですね。娼婦の話ですし。

宮田 そうですね、事務所にもちゃんと確認しました(笑)。あと、初めて読んだ千早さんのご本、『桜の首飾り』は思い入れがあります。

千早 『桜の首飾り』はデビュー前に書いた短編もいくつか入っています。バイトで疲れて帰ってきたときに家でノートに書いたものとか。今回、宮田さんの『きらきらし』を拝読して、この作品を書いていた頃のことをふっと思いだしたんですよね。

宮田 そうなんですか! 手に取ったのは本当に偶然だったんですけど、千早さんに出会った運命の一冊になりました。あの話たちが連作短編として一冊の中に連なっていることが幸せなんです。儚くて、美しくて、気高くて。

千早 嬉しいです。宮田さんは書くのと読むのはどっちが好きですか?

宮田 読む方が好きです。

千早 直木賞の授賞式で、小川哲さんが、最期の瞬間も多分自分は読者でいるだろうとおっしゃっていて、浅田次郎先生もそうだと。でも、私は書きたいんですよね。死ぬ前の視界がどんな感じかとか、息が絶えるその瞬間も可能なら文字にしたい。同じ物書きでも分かれるんだなと思いました。

宮田 読むことによって自分がどういう感情になるかが気になるんです。読み終わった後に、読む前と比べてどう自分が変わったかみたいなことも気になって、いつでも読んでいたいです。

千早 私は書いているときは文体が引きずられてしまうことが怖くて絶対読めない。読めるのは漫画くらいです。

撮影:新潮社写真部 スタイリスト:北川沙耶香 ヘアメイク:田村直子(GiGGLE)

新潮社 波
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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