「この先の人生を『余生』としか思えなかった」宝塚歌劇の元団員が明かした卒業後の虚無感と第二の人生

対談・鼎談

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すみれの花、また咲く頃

『すみれの花、また咲く頃』

著者
早花 まこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103549215
発売日
2023/03/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

早花まこ×天真みちる・対談「『命を懸けた』次にあるもの」

[文] 新潮社


天真みちるさん

 元タカラジェンヌの早花まこさんと天真みちるさん。

 早花さんは雪組、天真さんは花組と同じ宝塚で活躍するも、在団中は交流がなかったというお二人が、「タカラジェンヌのセカンドキャリア」という同じテーマで書籍を刊行したのを機にトークイベントを行った。

 宝塚を卒業して、新しい人生を歩んできた二人が経験し、感じてきたこととは? そして第二の人生の糧となった宝塚時代の経験とは?   

 本記事では、元タカラジェンヌ9名に取材したノンフィション『すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』(新潮社)と、宝塚卒業後の体験を綴った『こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇』(左右社)の刊行を記念し、2023年3月8日に八重洲ブックセンター本店で開催された爆笑トークの模様をお伝えする。

早花まこ×天真みちる・対談「『命を懸けた』次にあるもの」

天真 今日は、早花大先生とこのようなイベントを開けて感無量です。

早花 いきなりどうしたんですか!?

天真 奇跡的にお互いの本の刊行時期が一緒で……。宝塚在団中はほとんどお話をしたことはなかったですよね。

早花 連絡先も知らなかったのが、退団後に偶然お会いする機会があって。

天真 アホなふりして、「一緒にイベントやりませんか?」と連絡させて頂きました。

早花 アホなふりではなかったです、ちゃんとしたメールでした(笑)。私の方こそ、今日はこのような機会を頂けて大変光栄です。花組のタソさん(編集部注・天真さんの愛称)といえば、知らない方はいないスターさんで、お芝居でもショーでも、トップスターさんの邪魔をせず、なぜあれほど個性を出しきれるんだろうといつも楽しみに舞台を拝見していました。

天真 いやー、私、ギリギリ邪魔してました……よね? 以前トップさんのファンの方から「〇〇さんのことを観に行ったのに、気付いたら天真さんのことを観ていました。どうしてくれるんですか」と、割と冷静なお手紙を頂いたことがありました……。

早花 そこからキャッチフレーズの「見たくなくてもあなたの瞳にダイビング☆」が生まれたんですね(笑)。

天真 先ほど「大先生」と言ったのは、私はそれこそ在団中から、機関誌「歌劇」で連載されていた早花さんの「組レポ。」を毎月楽しみに読んでいた、ヘビー読者でございます。

早花 ありがとうございます。

天真 何年くらい担当されました?

早花 8年ほどです。

天真 長い! お稽古や公演をしながら毎月連載を続けるって相当大変だったと思います。しかも内容が、毎回こちらの期待を超えるクオリティと、ファニーじゃなくて……ユーモアあふれる文章で雪組さんの愉快な様子を届けて下さって。ほんと、「ありがてえ……!」と思っていました。

早花 楽しみにして下さった読者の方と、ネタを提供してくれた雪組のみなさんのおかげです。私も、タソさんが「歌劇」に寄稿した「えと文」がすごく面白くて印象に残っています。花組さんに詳しくない方でも楽しめる工夫がされていて、さすがだなと。なので、2年前に1冊目の御本『こう見えて元タカラジェンヌです』を刊行されたときも、驚きよりも「やっぱりね!」と納得の気持ちがまずありました。書くことは昔から好きだったの?

天真 自覚はあまりなかったのですが、好きだったんだと思います。例えば「えと文」の時には、気がついたら文字数が多すぎて、編集の方が漢字にできるすべての単語を変換しても収まらず、頑張って削って……。結果、「絵と文章」の両方を掲載するコーナーなのに、文章しか掲載されませんでした。

早花 覚えてる! 確かに、ページがびっしり文字で埋め尽くされて真っ黒だった!

天真 その「えと文」を読んだ左右社の方が「何か書きませんか?」と卒業後に声を掛けて下さって本の刊行に到りました。あの時、頑張って書いて良かったです……。

早花 素晴らしい! タソさんの文章力のなせる業ですね。

自分を書くこと、他人を書くこと


早花まこさん

早花 今日ぜひお聞きしたかったのは、「自分自身を書くこと」についてです。私にとってはとても難しく苦手なことなのですが、タソさんはそれが本当にお上手で。「組レポ。」で人のおっちょこちょいな失敗などはスラスラ書けちゃうのに、自分のこととなると途端に分からなくなってしまう。腹黒い性格なんです、私。(会場笑)

天真 それこそ1冊目を書き始めた当初は、「起きた出来事」を箇条書きしているだけでした。「この日、宝塚受験に失敗した。」「初めての受験で何もできなかった。」「帰り際、隣の受験番号の人に、『あなたの地元に私の祖先が眠っています』と訳の分からないことを言われた。」みたいに、つらつらとネタを羅列するだけで。そんな時、宮藤官九郎さんのエッセイを読んだら、「俺はダメだ。自信がない。こんな俺が書いてる脚本は絶対にダメだ」とあって。

早花 あんなに素晴らしいドラマを書かれる方なのに?

天真 そうなんです。自己評価と世間の評価のギャップがすごく面白いと感じて。同時に、出来事ではなくて、その時に自分がどう感じ、何を考えたのかを書かなきゃって気がつきました。冷静になれば、当たり前のことなんですが……。でも、そうなると今度は、「私の心の動きを知りたい人っているのか?」という疑問に直面して……。

早花 ここにいますよ!!

天真 力強い肯定、ありがとうございます(笑)。とりあえず依頼されたし、キャッチフレーズと同じく、「聞きたくなくてもダイビング」で半ば開き直り、好き勝手に書いてしまえ、と。でもいまだにこの疑問は拭えないままで、自分を書くことの難しさはずっとあります。編集者さんに提出する時も、赤面して顔を伏せながらこっそり送っている感じで、「どうだね、君、この原稿は」みたいには、できない。(実演)

早花 ドヤ顔の文豪がいま目の前に現れた……!(会場笑)

天真 逆に、私は早花さんのように、誰かにインタビューして、その人の思いを感じ取りながら、自分の思いも綴ることはできないので、御本を拝読して、本当にすごいなと思いました。

早花 ありがとうございます、嬉しい。

天真 それに、ご自身のことを書かれるのが苦手とおっしゃいましたが、御本の「はじめに」で書かれていた早花さん自身のお話も素敵でした。連載が始まった時から読ませて頂いていて、次は誰が登場するんだろうって毎回楽しみにしていたんですが……あのー……。

早花 どうしました?

天真 今日絶対にお聞きしたかったことがあって。(早花さんの方をじーっと見つめながら)御本には9名の元タカラジェンヌの方のお話が収録されていますが、その中に私は候補として挙がらなかったのですか……?

早花 あ、それはもちろん挙がったんです! でも、天真さんはご自分でご自身のことをかなり深く掘り下げた上、あれだけ表現力豊かに、面白い文章にまとめていらっしゃる。

天真 確かに……。

早花 確かにって(笑)。でも本当にそうで、そんな方を私がどう書けるのかなって……。正直に言いましょう、自信がなかったんです。タソさん以上にタソさんのことを書く文章力が今の私にはない、タソさんの本を読んで爆笑している限りは無理だな、と。

天真 これからはもっと寡黙になりますか(笑)。

早花 その必要はないですが(笑)、でも、そんなふうに思って頂けていたなんて、勇気を出してオファーすればよかったと今思いました。

天真 いつか機会があったらぜひお願いします!

セカンドキャリアに役立つ「余興」?


天真みちるさん(左)と早花まこさん(右)

天真 今回、タカラジェンヌのセカンドキャリアを書いている、という大きな共通点があって、その上で私が「同じだ!」と思って嬉しかったのが……ねぇ、早花さ……あ、きゃびぃさん(注・早花さんの愛称)……。(急に俯く)

早花 その名で呼んで下さってありがとうございます(笑)。そして私が言うのですね、はい。ちょっと生意気な言葉なのですが、私は宝塚を卒業したばかりの頃、この先の人生を「余生」としか思えなかったんですね。10代の頃からの夢を18年間も満喫して、もうやるべきことは何も残っていないんじゃないかと。そうしたら、タソさんも同じように御本に書いてらっしゃって。

天真 タカラジェンヌ“あるある”と言いますか、卒業を決める大きな理由の一つが、命を懸けて、全てを懸けて、自らが追求する理想の「男役」「娘役」にたどり着けた、やり切ったと思えたかどうか、だと思うんですね。

早花 ええ。

天真 そんな青春がギュッと詰まった場所から離れた時、その時点で人生のすべてが終了したような気持ちになってしまったんです。

早花 卒業して3年経った今思うのは、本当に世間知らずだった、ということに尽きますが……(笑)。

天真 同じく……! 本にも書きましたが、脚本を書いたり、舞台をプロデュースしたりと色々なことを実際にやってみて、大変なことがたくさんありながらも、今、とても充実していて。それで今日、早花さんにお聞きしたかったことがもう一つありまして……。

早花 なんだろう?

天真 在団中の話になりますが、「余興」を考える人でしたか?

早花 ……はい、考えてました。

天真 くぅーー!! ちなみに、台本って書かれてました?

早花 ……はい、書いてました。

天真 やった、同じだ!! もうちょっと深くお聞きすると、雪組さんは有志でやる感じですか!?

早花 その前に「余興」の説明をしますと、コロナ以前のことになりますが、宝塚では公演期間中に一度、組単位で宴会が開かれるんです。「お疲れ様!」という意味合いの楽しい会で、そこで必ず「余興」というものが披露されます。それを誰がどう担当するかは組によって違っていて、雪組は主に下級生の担当で、そこに自ら希望して参加する上級生もいました。

天真 花組もだいたい同じです。

早花 その、「自ら希望する上級生」だった私たち……(笑)。

天真 なんなら、自分の退団公演の余興も担当しました。

早花 え、すごい! 退団公演って、やることだらけで忙しいのに……。

天真 公演と同じくらい、心血注いでいましたから……!(笑)

早花 そういえば、これは結果的にそうなったことなのですが、私が取材した9名の方の多くが、余興を担当していました。インタビュー中に余興の話になると、みなさん、情熱がほとばしり……。元雪組の香綾しずるさんに到っては、「余興で何を見せたいか、そのポイントを押さえることが全てに繋がる」という謎の名言も残してくれて。それこそタソさんは、余興での「経験」が現在のセカンドキャリアに生かされていますよね?

天真 ゼロから何かを生み出す“プロデュース力”を鍛えられた気がしています。そう、確実に余興が役に立っている……! 今日こうしてお話をしていて、いつかきゃびぃさんと私が2幕ずつ台本を書いた、4幕構成の「余興」を披露する舞台をプロデュースしてみたい……そんな新たな夢ができたのですが、いかがでしょう!?(会場大きな拍手)

早花 それは面白そう! 私も「書く仕事」をこれからも続けていければと願っていまして、ぜひご一緒させてください。

天真 わー嬉しい! 絶対実現させましょう。今日は本当にありがとうございました。勇気を出してお誘いして良かったです(笑)。

早花 こちらこそありがとうございました。

新潮社 波
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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