『花だいこん』
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動き出す作中人物たち
[レビュアー] 山本一力(作家)
ここまで『だいこん』『つばき』『花だいこん』と、三部作を仕上げてきた。
書き進めるなかで主人公つばきは、作者の思いつきや段取りなど気にも止めずに成長を続けた。
第一作開始に当たり、主人公の大まかな人物造形を試みた。
○ごはんの炊き方が図抜けて上手。
○三姉妹の長女で、妹思い。我がことより、妹の幸が大事。
○大工の腕はいいが酒好きで身勝手な父。欠点も多いが、そんな気性を承知で、つばきは父が大好き。
○父を支える母を、深く尊敬している。
初作『だいこん』を書き進めるとき、この粗い人物像に照らすことを試みた。
つばき一家以外の登場人物の大半は、物語の進展に合わせて誕生すればいいと考えていた。
最初から明瞭な人物像が思い描けていたのは、つばき一家五人の他には、父親をいたぶる敵役伸助(しんすけ)ぐらいだった。この人物ですら、物語の展開につれて動き出す脇役のひとりという認識だった。
第二作『つばき』では、伸助は「閻魔堂(えんまどう)の弐蔵(にぞう)」と名を変えた。つばきは伸助を蛇蝎(だかつ)の如くに嫌っていた。
弐蔵に対して、つばきはわざと「伸助さん」と呼びかけることを続けた。下っ端時代の名で呼ばれるのを嫌う弐蔵への、きつい意趣返しもかくやとばかりに。
ところが第三話の本作では物語の随所で、つばきの心情に、変化が生じた。
そして心底、弐蔵を受け止めて物語は……。
初作では考えもしなかった展開となったのは、つまりは初作の途中から、作中人物たちが、筆者の都合など飛び越えて思った通りに生きているからだ。
次作があるなら筆者もまた、あとを追えるのが楽しみである。