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エッセイ

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花だいこん

『花だいこん』

著者
山本一力 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915209
発売日
2023/03/23
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

動き出す作中人物たち

[レビュアー] 山本一力(作家)

 ここまで『だいこん』『つばき』『花だいこん』と、三部作を仕上げてきた。

 書き進めるなかで主人公つばきは、作者の思いつきや段取りなど気にも止めずに成長を続けた。

 第一作開始に当たり、主人公の大まかな人物造形を試みた。

○ごはんの炊き方が図抜けて上手。

○三姉妹の長女で、妹思い。我がことより、妹の幸が大事。

○大工の腕はいいが酒好きで身勝手な父。欠点も多いが、そんな気性を承知で、つばきは父が大好き。

○父を支える母を、深く尊敬している。

 初作『だいこん』を書き進めるとき、この粗い人物像に照らすことを試みた。

 つばき一家以外の登場人物の大半は、物語の進展に合わせて誕生すればいいと考えていた。

 最初から明瞭な人物像が思い描けていたのは、つばき一家五人の他には、父親をいたぶる敵役伸助(しんすけ)ぐらいだった。この人物ですら、物語の展開につれて動き出す脇役のひとりという認識だった。

 第二作『つばき』では、伸助は「閻魔堂(えんまどう)の弐蔵(にぞう)」と名を変えた。つばきは伸助を蛇蝎(だかつ)の如くに嫌っていた。

 弐蔵に対して、つばきはわざと「伸助さん」と呼びかけることを続けた。下っ端時代の名で呼ばれるのを嫌う弐蔵への、きつい意趣返しもかくやとばかりに。

 ところが第三話の本作では物語の随所で、つばきの心情に、変化が生じた。

 そして心底、弐蔵を受け止めて物語は……。

 初作では考えもしなかった展開となったのは、つまりは初作の途中から、作中人物たちが、筆者の都合など飛び越えて思った通りに生きているからだ。

 次作があるなら筆者もまた、あとを追えるのが楽しみである。

光文社 小説宝石
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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