『安倍晋三 回顧録』
- 著者
- 安倍晋三 [著]/橋本五郎 [著]/尾山宏 [著]/北村滋 [監修]
- 出版社
- 中央公論新社
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784120056345
- 発売日
- 2023/02/08
- 価格
- 1,980円(税込)
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『安倍晋三 回顧録』 一つ一つが懐かしい
[レビュアー] 阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
読みながら幾度も、「そうそう、あの時はそうだった」と感慨にふけった。平成10年7月の初取材以来、昨年7月8日に非業の死を遂げる前夜まで、番記者として、あるいは僭越(せんえつ)ながら政治信条が近い同志として、安倍晋三元首相からさまざまな話を聴いてきた身には、一つ一つのエピソードが懐かしい。
本書では、安倍氏が15年9月に、当時の小泉純一郎首相によって当選3回で自民党幹事長に抜擢(ばってき)されてからの出来事が、安倍氏の肉声を通じ網羅的に描かれている。現代政治史、外交史の資料としても大変貴重な内容だといえる。
ただ、戦後70年談話、天皇陛下の退位示唆、財務省との暗闘…と多くの政治事象や安倍氏による人物評を網羅的に取り上げていることと、書籍として刊行されることを前提とするオンレコのインタビューであるため、それぞれのテーマについての突っ込みに少し物足りないところはある。
例えば、14年9月に小泉氏が金正日総書記と会談した際に、官房副長官だった安倍氏が「場合によっては(米国)ブッシュ大統領と会ったらどうか」と言うと、金氏がいきなり体を乗り出してきたという証言は生々しい。
一方で、当時の首相官邸や外務省の中枢が、安倍氏を除き拉致問題解決よりもはるかに日朝国交正常化を優先させていたことや、それについて安倍氏がどう苦しみどう動いたかなどへの言及は乏しい。
安倍氏が経験し行動し、考察してきたことは、どのテーマをとってもそれだけで一冊の本になるほど密度が濃い。もとより、回顧録で書き尽くすことは難しいことだろう。
本書を通じ、安倍氏の本音や真意に初めて触れたという読者も多いはずである。ただ告白すると、本紙が過去に掲載してきた「安倍氏は周囲に語った」という文章の「周囲」とは、ほとんどが評者を含む記者のことである。オフレコベースのためぼかしているだけで、安倍氏のもっと本音に近い肉声をつづり、伝えてきたつもりである。(安倍晋三著、橋本五郎聞き手、尾山宏聞き手・構成、北村滋監修/中央公論新社・1980円)
評・阿比留瑠比(論説委員兼政治部編集委員)