従順で素直な「子役」を覆した宮沢りえや後藤久美子 子役の歴史からわかることとは

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子役のテレビ史 早熟と無垢と光と影

『子役のテレビ史 早熟と無垢と光と影』

著者
太田 省一 [著]
出版社
星海社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784065309513
発売日
2023/02/22
価格
1,265円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

従順で素直な存在からの「地殻変動」

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 現在活躍する「子役」の一人が毎田暖乃だ。2020~21年の朝ドラ『おちょやん』(NHK)、22年の『妻、小学生になる。』(TBS系)など話題作が続く。高い表現力に加えて共演者の芝居への対応力が抜群で、その演技が作品を下支えしていると言っていい。

 そんな毎田の先輩たちが歩んできた軌跡にスポットを当てたのが、太田省一『子役のテレビ史 早熟と無垢と光と影』である。1970年代を代表する子役は『鳩子の海』(NHK)の斉藤こず恵だ。80年代前半には『おしん』(同)の小林綾子や『北の国から』(フジテレビ系)の吉岡秀隆と中嶋朋子などがいた。

 そして著者が子役の世界に「地殻変動」を起こしたとするのが、80年代後半に登場した後藤久美子や宮沢りえだ。彼女たちは「子役は従順で素直であるべき」だという当時の常識を覆す、「自己主張する子役」だった。

 思えば、子役はどこか矛盾した存在だ。どこにでもいる子どもを演じるが、彼ら自身は普通の子どもではない。「無垢」であることと、「早熟」であることの両方を同時に求められる。そのバランスが難しい。

 かつて「子役は大成しない」などと言われた。しかし現在は子役としての成功が大人の俳優への登竜門にさえなっている。その背景には社会の子ども観の変化や、大人と子どもの境界が消滅したことなどがある、と社会学者の著者。子役の歴史とは、テレビと社会の歴史でもあると再認識する。

新潮社 週刊新潮
2023年4月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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