『地図記号のひみつ』今尾恵介著(中公新書ラクレ)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
施設を文字で説明するオンライン地図を使っているうちに、学校で習った地図記号の意味を忘れてしまった人も多いかもしれない。しかし小さな地図に多くの情報を詰め込むために工夫されてきた様々な記号それ自体から、実は多くのことが読み取れることを本書は教えてくれる。
地図はその時代で重要とみなされる情報を掲載している。陸軍が地図を作成していた戦前には部隊の行軍に障害があるかどうかで田や道路、橋の記号が区別された。国土地理院の地図に桑畑の記号が近年まであったのは生糸が日本の重要な輸出品だった時代の名残だった。歯車を模した工場の記号も無くなる一方、老人ホームや発電用風車、東日本大震災後に注目されるようになった自然災害伝承碑などの記号が新設され、時代と共に地図記号も消えたり生まれたりしている。
本書を読んだら、地図を眺めてその場所の実際の様子を想像し、現地に行って地図と比較してみよう。地図上の情報を基に想像する楽しさと、記号で表されていなかった事実を知ることによる驚きをともに得られるだろう。