【漫画漫遊】離島女子の「まんが道」 『これ描いて死ね』とよ田みのる著

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これ描いて死ね

『これ描いて死ね』

著者
とよ田 みのる [著]
出版社
小学館
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784098511433
発売日
2022/05/12
価格
819円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【漫画漫遊】離島女子の「まんが道」 『これ描いて死ね』とよ田みのる著

[レビュアー] 本間英士

ギョッとするタイトルだが、グイグイ引き込まれる青春漫画だ。書店員らが選ぶ「マンガ大賞2023」大賞受賞作。離島に住む女子高校生たちが漫画制作を通じて成長する物語には、漫画に限らず全ての創作に共通するテーマが描かれている。漫画を描く楽しさと、生みの苦しみ。人の心を動かすものとは何か…。

舞台は伊豆大島をモデルにした東京都の離島。大の漫画好きの高校生・安海相(やすみ・あい)は、島外で開かれた創作専門の同人誌即売会「コミティア」の会場で、「漫画って、自分で描けるのか」と気づく。その後、相は友人と漫画研究会を結成。作画担当の藤森心(こころ)、辛辣(しんらつ)な感想を言う編集者的立場の赤福幸(さち)と役割を分担し、協力して作品を紡ぎ上げる。

苦心して描いた漫画を他人に笑われ、ダメ出しを受ける相。そこへ漫画家経験を持つ国語教師の手島先生が漫研の顧問となり、相は漫画のいろはを教わることで少しずつ実力を付けていく。さらに、同人の世界で名をはせる石龍光(せきりゅう・ひかる)というライバルも漫研に加わり…と、漫画の王道的展開に。

本作の読みどころは「初めての感動」の描写にある。初めて作品を完成させたときの喜び。おそろいのTシャツを作って漫画イベントに参加するワクワク感。初めて自分の作品が売れたときの、えもいわれぬ感情―。初めての体験を通じて得た「世界で一番嬉(うれ)しい瞬間」の描き方にリアリティーがあり、新たな世界への扉を開ける姿がキラキラと輝いてみえる。

明るい青春漫画である本作に苦みと深みとけれん味を加えるのが、手島先生の過去のエピソードだ。創作を巡る自尊心と自己否定の果てなきせめぎ合いに疲弊した手島先生は、教師に転身するも、漫画への熱が未だくすぶっている。そんな時、「漫画が好き」という相の純粋な思いと、何度ダメ出しされても漫画を描き続けるひたむきな姿に影響され、忘れていた何かを思い出していく。本作は手島先生の物語でもあるのだ。

近年は美術漫画『ブルーピリオド』をはじめ、創作の裏側を真摯(しんし)に描いた作品が増えている。SNS(交流サイト)の普及に伴い、誰もが自らの創作を発表できる環境が整ったことも人気の背景にあるのだろう。本作は「漫画家漫画」の代表作である藤子不二雄A著『まんが道』など、先達への敬意も随所ににじむ。良い意味で脱力感のある独特の作画も魅力的だ。最新3巻が12日に発売。(小学館・各820円)

評・本間英士

産経新聞
2023年4月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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