朝ドラ『らんまん』のモデル「牧野富太郎」にまつわる本3選 娘が語った「父の素顔」も

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  • 牧野富太郎と、山
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あの植物学者の横顔草木が心底好きだと伝わる文章に魅了されて

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルとして、注目を集めている植物学者・牧野富太郎。書店にも著作や関連書が並び、まさに爛漫という感じ。『随筆草木志』は彼の最初のエッセイ集だ。

 本書は〈私は植物の愛人としてこの世に生まれきたように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います〉という自己紹介ではじまる。そして、草木は時を問わず処を選ばずいつでもどこでも楽しめるもので、知識があれば〈無限の感興を催す〉という確信のもとに、ウキクサからいんげんまめまで、多種多様な植物を推して推して推しまくるのだ。植物の知識に少しでも不正確な部分があれば、シーボルトのように有名な学者にもツッコミを入れる。植物が心底好きだと伝わってくる文章に魅了されてしまう。

 例えば「花の先がけアジアの梅よ不意気なプラムはわしじゃない」の項では、アジア原産の梅と西洋種のプラム(李)を混同している人が多いことに憤っているのだが、怒り方がなんともユーモラスで可愛らしい。

 最近刊行された文庫でもう一冊おすすめしたいのが『牧野富太郎と、山』(ヤマケイ文庫)。牧野富太郎のエッセイから山にまつわるものを集めた本だ。『随筆草木志』と一部収録作が重なっているが、登山の専門書を出している版元が編んだだけあって、実際に山を訪ねるためのガイドにもなっている。一つの山を縦半分に割りたいとか関東大震災みたいな地震にもう一度出逢いたいとか新年にとんでもない希望を綴る「漫談・火山を割く」、マグソタケをお題にした俳句を九句も(!)吟じてみせる「馬糞蕈は美味な食菌」など、自由な発想と屈託のない人柄があらわれている。

 しかし、牧野富太郎みたいな人が家族だと、苦労は多いようだ。『牧野富太郎自叙伝』(講談社学術文庫)には、娘が語った「父の素顔」も収録されている。一つのことをはじめると、そこへ雷が落ちようが、無我夢中でやりとげる人。家庭のことには一切無頓着なのに、みんなに愛されているところが羨ましい。

新潮社 週刊新潮
2023年4月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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