『MAKINO 植物の肖像』菅原一剛著(北隆館)
「日本植物学の父」と呼ばれる植物学者の牧野富太郎(1862~1957年)は、人間は植物に感謝しなければならないと考え続けていた。その感謝は、手がけた標本が、まるで生きているかのようなことからも見て取れる。たとえば、ソメイヨシノ=写真=は、採集の時期にも心を砕いた枝だろう。咲き誇る花もあれば、咲きかけも、つぼみもあり、余白の向こうから、柔らかな春の陽光がさしてきそうだ。牧野はことのほか桜を愛し、ソメイヨシノは「他のサクラの及ばぬ艶麗(えんれい)な姿」と絶賛した。
本書は、牧野の標本に魅せられた写真家の菅原一剛が、高知県立牧野植物園が所蔵する標本から41点を撮影した。東京・練馬の牧野邸で採集されたセンダイヨシノという種の桜のほか、イロハモミジ、ヒメアジサイ、コスモスなどの標本が、高精細に写されている。いずれも、人物の肖像写真のように、折り目正しいたたずまいだ。(央)