『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 (原題)CHIP WAR』クリス・ミラー著(ダイヤモンド社)

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半導体戦争

『半導体戦争』

著者
クリス・ミラー [著]/千葉 敏生 [訳]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784478115466
発売日
2023/02/16
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 (原題)CHIP WAR』クリス・ミラー著(ダイヤモンド社)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

台湾舞台 米中の覇権争い

 本書は今や原油を超えた戦略物資とも言われる半導体を巡る企業や国家の攻防を生き生きと描いたノンフィクションである。半導体は我々の夢を叶(かな)える未来のテクノロジー製品にとって不可欠なだけでなく、高精度のミサイル等の兵器の生産や制御において今や戦争の勝敗をも左右し、経済のみならず安全保障上も死活的に重要なのは周知の事実である。

 本書では半導体開発競争の歴史と現状、そして近未来の見通しが語られる。歴史では日本の半導体覇権の興亡と韓国・台湾・中国の台頭の物語、コンピュータやスマートフォンの最も重要な頭脳部分であるマイクロプロセッサ分野でのインテルと英アームの攻防、AI向けの半導体分野における激しい競争などが読者の注目を集めるだろう。

 現状についての考察では半導体の生産工程とサプライチェーンがいかに複雑な相互依存に支えられているかがよく理解できる。今や多くの半導体は回路設計と製造が別々の企業での水平分業によって作られている。現在、最先端の半導体は超高度な製造技術を持つ台湾企業TSMCしか作れないとされるが、設計や材料と製造装置の供給などで日米欧の企業も重要な役割を担い、TSMC単独では高性能な半導体は作れない。つまり半導体について全てを支配する企業や国は存在しないのだ。

 そして本書の最大テーマであり、世界が注視する半導体を巡る米中の攻防の見通しが詳細に論じられる。その重要な舞台となるのが台湾だ。中国の台湾政策の狙いの一つが半導体覇権にあり、TSMCの支配権の獲得がその重要なシナリオであることは容易に想像される。半導体の複雑な生産工程では日米欧が独占する分野が必要不可欠であり、TSMCの獲得だけで中国が半導体の支配権を直ちに握れるわけではないが、半導体の製造能力を通じてアメリカとの世界覇権を巡る戦いに有利に臨めると中国は考えているのであろう。半導体は人類に大きな夢を与えると同時に複雑な争いと危機の種ともなることを描いた力作。千葉敏生訳。

読売新聞
2023年4月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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