刑務所の高齢女性は犯罪者か、弱者か?

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塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で

『塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で』

著者
猪熊 律子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784040824703
発売日
2023/03/10
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

刑務所の高齢女性は犯罪者か、弱者か?

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 刑務所に高齢の受刑者が増え、まるで介護施設のようになっている、という話を初めて知ったのはいつごろだったか。家族のないおじいさんは世の中に居場所がなく、わざと軽犯罪を繰り返して刑務所に戻ろうとする人もいるという話も聞いていた。ところが、刑務所を出たくない高齢者は、男性だけではないようだ。猪熊律子『塀の中のおばあさん』を読み、女性にも同じような孤立の問題があると知った。

 高齢になり思うように働けなかったり持病があったりで、声をかけ見守ってくれる人もいないとなれば、食事も寝床も確保され、刑務官がつねに自分を観察してくれる刑務所の中がいちばん安心な場所になってしまうのもわかる。高齢者だけではなく、この本には摂食障害や薬物依存から犯罪に手をそめ刑務所に入ったさまざまな年代の女性たちも登場する。生き方に選択肢がないせいで犯罪から離れられない、貧困から抜け出せないといった問題は、どちらかといえば女性のほうが陥りやすく、年齢は関係がない。

 いま、社会のすみに溜まった歪みを引き受けさせられている場所のひとつが刑務所なのだろう。刑務所に現れる問題は社会の縮図であり、解決しようと思ったら社会のしくみから見直す必要がある。そうした熱意に満ちた本だ。一回刑務所に入ったらもうすべての人間関係から弾き出されてしまう社会を変えていくことは容易ではないが、著者はその道を探っている。

新潮社 週刊新潮
2023年4月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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