酒井 敏『カオスなSDGs グルっと回せばうんこ色』(集英社新書)を尾池和夫さんが読む SDGsとは「それは・できない・ゴメンナサイ」

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カオスなSDGs : グルっと回せばうんこ色

『カオスなSDGs : グルっと回せばうんこ色』

著者
酒井, 敏, 1957-
出版社
集英社
ISBN
9784087212594
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

酒井 敏『カオスなSDGs グルっと回せばうんこ色』(集英社新書)を尾池和夫さんが読む SDGsとは「それは・できない・ゴメンナサイ」

[レビュアー] 尾池和夫(静岡県立大学学長、第24代京都大学総長)

SDGsとは「それは・できない・ゴメンナサイ」

 二年前の四月に、私は静岡県立大学の学長に就任しました。そのとき副学長として招いたのが、京都大学での定年が近づいていた酒井敏先生です。
 私が着任したとき、すでに本学ではSDGsに取り組んでいました。その活動を支援するよう酒井先生に頼みましたが、本人はSDGs自体にあまり興味がないが、それでも仕事として何かやらねば……というモヤモヤが、本書を生んだきっかけのようです。
 SDGsにモヤモヤする人は多いでしょう。酒井先生が「キレイゴト」と言うとおり、表向きはSDGsへの参画を標榜しながら、実際には何もできていない企業はたくさんある。本学も学長室に「SDGs宣言」と大書した幕を掲げていました。それだけで何かやったつもりになっては意味がないので、着任してから実質化に取り組んでいます。
 また、SDGsの17項目はどれも実行するのがかなり難しい。何かひとつ選んでやろうと思っても、日常生活で我慢を強いられるなどしてストレスが溜まります。だから学生には「無理してやったらアカンよ」と言います。SDGsは「それは・できない・ゴメンナサイ」の頭文字だと思えばいい。酒井先生も「SDGsのために現在の生活を犠牲にしてはいけない」と書いています。
 とはいえ、人間を自然の一部として考える思想は大事です。私が総長だったとき京大は法人化しましたが、その前から「地球社会の調和ある共存」という基本理念を掲げていました。SDGsを先取りするものだったと思います。酒井先生が「ゴールではなくスタート」と書いているとおり、そういう大事な問題を考えるきっかけを与えたことに、SDGsの意義があるのでしょう。
 最後に本書のサブタイトルについてひと言。SDGsバッジの17色を「グルっと回すとうんこ色」になると言うのです。その含意は本書に譲りますが、私は実際に17色の円盤をグルグル回してみました。たしかに茶色くなりますが、これは不健康なうんこの色。健康なうんこは黄色くて、バナナ型で、水に浮きます。自分が健康でなければ、SDGsもクソもありません。まずは毎朝ちゃんと自分のうんこを観察することから始めましょう。

尾池和夫
おいけ・かずお●静岡県立大学学長、第24代京都大学総長

青春と読書
2023年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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