『腐ったテレビに誰がした?』鎮目博道著(光文社)

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『腐ったテレビに誰がした?』鎮目博道著(光文社)

[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)

 人々の手には常にスマホ。テレビをリアルタイムでじっくり見る機会は減った人が多いのでは。27年テレビ界で働いた「中の人」が、テレビ制作の危機を検証した。

 コメンテーターをスタジオに呼ぶワイドショー文化が広がり、「事実を意見で水増し」する番組が増えた。パネルやネット情報で放送時間を埋め、現場取材や裏どり作業はおざなりに。「いきすぎたコンプラ」で「ちょいワル」番組が激減。政治家の圧力を恐れて批判をしない番組ばかり、と手厳しい。取材や制作の基礎を学ぶ場が減り、局員と外部スタッフの賃金格差は広がる一方。優秀な人材はネットへ流出していくとの指摘には危機感がにじむ。

 それでもWBC中継が高視聴率を得たり、愛される長寿番組もあったりと、高齢者には大事な娯楽。元テレビ屋の評者としては本書タイトルに「完全に腐っちゃいないぞ」とボヤきたくなるが、著者も実はテレビ愛の人。もっとネット配信を増やし、スポンサーより視聴者目線で「ええカッコ」をやめて「サービス精神旺盛」に挑めと現場へのエールも熱い。

読売新聞
2023年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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