『父から娘への7つのおとぎ話』
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『父から娘への7つのおとぎ話 (原題)The Lost Storyteller』アマンダ・ブロック著(東京創元社)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
寓話手がかりに父探す旅
レベッカは父を知らない。幼い頃に別れた父レオは、人気子ども番組の出演者だった。だが突然消息を絶ち、誰もその行方を知らない。
父のことは忘れたつもりでいたレベッカのもとに、ある日レオを探すウェブメディアの記者エリスが現れる。母や伯父に聞いても満足な答えは返ってこない。だけど、そんな時、祖母から一冊の本を手渡される。それはレオがレベッカのために書いた寓話(ぐうわ)集だった。
孤児の男の子がある日、水の精と出会い、その願いをかなえようとする〈収集家と水の精〉。不思議な力を持つ子どもが悪魔だと恐れられ、迫害される〈黄金の扉〉。世界の境界を越え、その向こうの影の国を見た船乗りの話〈世界の果てへの航海〉。望んでいた魔法のリュートを手に入れたが、それは同時に呪いのリュートでもあった〈魔法のリュート〉。道に迷い、木こりの一家に保護された男は食べ物と引き換えに体の一部を少しずつ渡していく〈木こりの小屋〉。愛する鳥を守るため、魔女と取引をする男の冒険〈魔女とスフィンクス〉。自身の影に追いかけられる〈影のない男〉。
読んでいくうちにレベッカは、それぞれの話が父の人生の一面の暗喩となっていることに気づく。そこにあったのは、レベッカの知らない、心の病気を抱え、もがき苦しみ、周囲との軋轢(あつれき)を深めていく孤独な男の姿だった。
エリスの助けを借り、少しずつ父に近づいていくレベッカ。父を探す旅はまた、レベッカ自身の成長の旅でもあった。レベッカが大人になったからこそ、父を再発見し、一人の人間として向き合えたのかもしれない。
著者のアマンダ・ブロックはこれがデビュー作。長年、書店員として働きつつ作家になることを夢見ていた。本を愛する著者ならではの作中作と現実が絡み合っていく構成が面白い。七つの寓話、あちこちにちりばめられた手がかりを探すのが楽しいコージー・ミステリ。吉澤康子訳。