『就活の社会学』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『就活メディアは何を伝えてきたのか』
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『就活の社会学 大学生と「やりたいこと」』妹尾麻美著(晃洋書房)/『就活メディアは何を伝えてきたのか』山口浩著(青弓社)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
過度な適応 求める市場
リクルートスーツの若者をよく見かける就活シーズンの今日この頃だが、新卒一括採用という日本的雇用慣行はあるにせよ、一定の時期に皆が同じような服を着て同じように行動する就活は、よく考えれば不思議な現象である。今回は就活を学問的に分析した二冊を紹介したい。
『就活の社会学』は大学のキャリア担当教員や就活生へのインタビューを通じ、現代の大学生の直面している就活の実態を社会学的に分析している。学生が就活をする中で、企業や就活メディアが求める人材像に合わせて「やりたいこと」を自発的に語るようになる(させられる)過程とそれに伴う陥穽(かんせい)には考えさせられる。
『就活メディアは何を伝えてきたのか』は明治以来の就活の歴史をたどりながら、就活に関する言説や最近の就職ナビなどをメディア論から分析している。一九六〇年代の男子大学生は学生服を着て就活をしていたことなど評者が初めて知る知識も多く、代表的な就活マニュアル本への「つっこみ」も皮肉が効いており面白い。一方で現代の就活メディアが、既存の日本的採用プロセスで内定を取るための合理性を極限まで追求していることへの懸念も示されている。
この二冊からわかるのは就活の自己責任化と就活生が過度に新卒市場への適応を求められる構造である。かつては多かった縁故採用が自由応募となり、さらにバブル経済崩壊後の厳しい就職状況の中、就職は学生が企業に採用されるために自ら努力すべき活動=就活となった。本来はこうした構造自体に問題があるが、他方で日本的雇用慣行が崩壊すると言われながら根強く残る現状を見ると、現在のような就活は今後も続き、就活生の苦労も続くのかもしれない。
評者がアドバイスできる立場だとは思わないが、就活に悩む学生の皆さんには「進路選択は真面目に考えるべきだが、その結果が人生を全部決めてしまうわけではない」と伝えたい。すべての就活生に幸あれ!