『おばけのこ』
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『おばけのこ』テルヒ・エーケボム著(求龍堂)
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
心が傷だらけになった一人の女性が、人里離れたところに引っ越すことにした。彼女の住まう小さな家のそばには、闇に覆われた森が広がっている。ずっと昔、この森には、貧しい年寄りや子供たちが連れてこられて捨てられたという。
案の定、真夜中になると、森の方から恐ろしいうめき声が聞こえてくる。彼女は思いきって森のなかへ足を踏み入れ、そして――。
森の国フィンランドからきた絵本。光を求めてさまようおばけたちと、孤独なヒロインと、小さな「おばけのこ」が紡ぐ不思議なお話だ。夜の闇、深い森、凍(い)てついた空気。衣装ダンスにしまいこまれる一足の小さな靴。寒い色調、シンプルな線画の世界で、最初のうちは冷たくうら淋(さび)しかった場面が、お話が進むにつれて温かく微笑(ほほえ)ましいものに変わってゆくのを、ぜひページを繰って確かめていただきたい。稲垣美晴訳。