『ホワイトデス』
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瀬戸内海にホホジロザメがやって来た
[レビュアー] 雪富千晶紀(作家)
『ホワイトデス』と聞いても、ほとんどの人が一体何のことやらだと思う。映画『ジョーズ』で有名なホホジロザメの別名で、白い死神という意味がある。
前作『ブルシャーク(オオメジロザメ)』の続編を書かせて頂けることになり、真っ先に今回はホホジロザメを主役にしようと決めた。サメ愛好家にとって、ホホジロザメはやはり特別な存在だ。他のサメとは一線を画す王者の風格がある。
自分で決めたにもかかわらず、「ついにホホジロザメを書ける日がきた……!」と、私は一人感激に打ち震えた。畏れもあった。ホホジロザメの小説を書くならば、「既存の物語の型」に頼っていてはならない。映画『ジョーズ』とは別のベクトルの、特別なものにしなくてはならない、と。
私はサメ愛好家であると同時に、なんでもアリのサメ映画ファンでもあり、両者の中間にいるなんとも中途半端な存在だ。そのせいで、自己矛盾とも言える問題がずっと心に燻(くすぶ)っていた。「サメ=凶悪なモンスター」という設定だ。主に映画などではそのように描かれがちで、サメ映画ファンとしての私は、悪役スターのサメを大いに楽しませてもらっている。しかし、サメ愛好家としての自分が顔を出すと、胸にチクッと棘(とげ)が刺さる。存在=悪とされ、最後には当然のように殺されるサメを、不憫(ふびん)に思ってしまうのだ。
という訳で、今作ではその問題に真正面から取り組むことにした。テーマは「サメと人間、社会との関わり」だ。仰々しくなってしまったが、瀬戸内海に入り込んだサメが出て行かない原因を探るという、サメエンターテインメント小説だ。
最初から答えは出ている。人を襲う可能性のある種類のサメと人間は「共生できない」。だが、予期せぬ事情で両者が共存せざるを得なくなったとき、人間はどうなるのか。社会はどうなるのか。サメはどうなるのか―。
どんな結末を迎えるのか、見届けて頂ければ幸いだ。