『ぼくの大林宣彦クロニクル』
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大林監督とのスペシャルな日々
[レビュアー] 森泉岳土
早いもので義父・大林宣彦(おおばやしのぶひこ)監督が他界して3年が経つ。あっという間だ。とはいえ恭子(きようこ)夫人や千茱萸(ちぐみ)さん―監督のひとり娘で僕の妻です―は監督が亡くなられてからも取材を受けたり問い合わせに対応したり、倉庫の膨大な資料を整理したりと忙しそうだ。
僕は僕で「大林監督との思い出を書きませんか」とお話をいただいて大林監督と過ごした日々のことを書かせてもらった。結婚の挨拶に行ったら馬の鞍(くら)を運んでいたことや(なんのことか分からないでしょう。僕にも分からない)、監督の事務所につとめていたときに学んだ創作の秘密、口を開くたびこぼれ出たダジャレなど、思い出はつきない。
それこそダジャレなどはそれだけで本が一冊書ける。はじめは監督がダジャレを言うたびに笑っていたのだけどだんだん恭子さんや千茱萸さんとおなじようにスルーするようになってふと「あ、家族の一員になったんだな」とそれで笑ってしまったことがあるほどだ。
大林一家は僕から見るとスペシャルな家族だ。監督は神がかったエネルギーと信念で唯一無二の星を目指してにこにこと突き進み、一心同体の恭子さんは当然のように愛を持ってそれを支え、千茱萸さんもそんな環境で生まれ育っているしもちろんあの大林監督の娘なので独創的だ(やわらかい表現)。そんな3人に家族の一員としてあたたかく迎え入れられ、なおかつ「この家族はちょっと普通じゃないぞ」といういわゆる一般人の視点もあり、たぶん、大林監督との愉快な日常を内側から伝えられるのは僕をおいてほかにいないと思っている。手前みそだけど。
なので本作を刊行できることは、マンガ作品を刊行するのとは違うよろこびに満ちている。「こんな素敵な人なんだよ!」と号外を配るような気持ちだ。僕が19年間にわたって浴びてきた「大林宣彦体験」を体験してもらいたい。そこは愛とユーモアとまっすぐな優しさにあふれた世界だからだ。