『Colored Black』デニス・モリス著・写真

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Colored Black

『Colored Black』

著者
デニス・モリス [著]
出版社
HeHe
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784908062520
発売日
2023/04/24
価格
3,850円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『Colored Black』デニス・モリス著・写真

[レビュアー] 黒沢綾子

■人間の尊厳、鮮明に

英写真家のデニス・モリスは、ジャマイカの“レゲエの王様”ボブ・マーリーや伝説の英パンクバンド、セックス・ピストルズら名だたるミュージシャンのポートレートで知られている。1960年生まれで、キャリアは既に半世紀以上に及ぶ。この写真集は最初期、10代前半で撮った作品を中心に構成。自身が育ったロンドンのブラックコミュニティーの日常がありのままに写し出されており、音楽シーンで活躍する前夜を収めた貴重な一冊だ。

著者によれば、ジャマイカなどカリブ海沿岸諸国から移り住んだ親の世代は英国社会でカラード(有色人種)と呼ばれ、自身の世代はブラック(黒人)と呼ばれたという。「貸し部屋あり。ただし黒人、アイルランド人、犬をのぞく」-。家主がこんなひどい張り紙を出すことも珍しくなかった時代、移民の多くは住む場所にも苦労した。

たった一つの部屋を布で仕切り、居間と寝室にして暮らす一家の写真がある。とはいえ悲壮感はあまりない。貧しくとも、人々は部屋を整え、きちんとした身なりで少年写真家の構えるカメラにほほえんでいる。週末の楽しみはファッションと音楽とダンス。とびきりおしゃれにキメてパーティーに出掛けるのだ。

そもそも写真との出合いは教会の少年聖歌隊の中に写真部が創設され、その一員になったことだという。写真は内気な少年に「何者かになる」夢を抱かせ、理不尽や困難にも「迷いはなかった」と振り返る。自分を信じて突き進んだ先に、英国ツアーにやってきたマーリーに同行撮影する幸運も待っていたわけだ。

いつの日か、分け隔てなく誰もが人間と呼ばれる日が来るだろうと著者。一見、クールでポップな写真集だが、ブラックコミュニティーの内側から自らの尊厳や強さを示そうとする、若き日の写真家の鮮明な意志が伝わってくる。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」(5月14日まで)に参加。本作と同名の個展が京都市内で開催中だ。(HeHe・3850円)

評・黒沢綾子(文化部)

産経新聞
2023年4月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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