木村セツさんの素敵なちぎり絵に感謝 祖母との思い出を綴った作家・椹野道流が語る

インタビュー

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祖母姫、ロンドンへ行く!

『祖母姫、ロンドンへ行く!』

著者
椹野 道流 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093891134
発売日
2023/04/20
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

若い頃に、「君はまだ削れる身が少ないから、エッセイは早いです」と制止してくださった師に、今さらながら感謝――『祖母姫、ロンドンへ行く!』椹野道流さんインタビュー

[文] ステキコンテンツ合同会社

 文芸投稿サイト「ステキブンゲイ」にてエッセイ「晴耕雨読に猫とめし」を連載中の小説家・椹野道流さん。連載の中でも特に大きな反響を集めた、祖母とのイギリス旅行を、書き下ろしとともにまとめたエッセイ集『祖母姫、ロンドンへ行く!』が刊行された。

 専門学校で解剖学と法医学を教える傍ら、作家として「奇談」シリーズなどのヒット作を手掛ける椹野さんが、頑固で優雅な祖母とともに過ごした英国での日々を描いた本書について、椹野さんにお話を伺いました。

――今回の『祖母姫、ロンドンへ行く!』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

うんと若い日、80代の祖母と二人きりでロンドンへ行った、旅の記録です。

ステキブンゲイさんが本当に好きにエッセイを書かせてくださるので、日常の話から、いきなり人生初の旅行記に足を踏み入れてしまいました。

そういえば「どくとるマンボウ航海記」を貪るように読んだ10代だったな、と懐かしく思い出しながら、当時はただ大変だっただけの旅を振り返り、本当は、祖母や彼の地で出会った人たちに、浴びるほど貰っていた優しさや思いやり、愛のある厳しさに改めて気づいた……そんな作品となりました。

――本作はステキブンゲイで連載中の「晴耕雨読に猫とめし」の中のシリーズエピソードをベースにしていますが、このエピソードを書こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか? また連載時の反響や、今回書籍化まで話が進んだことについて、改めてお感じになったことがありましたらお聞かせください。

きっかけは……。執筆スケジュールが過酷で、今週はエッセイを休ませてもらおうとお詫びのツイートをしました。それなのに、ふと祖母とのロンドン旅行を思い出してしまい、じゃあちょこっと書くか、と。最初はただの気まぐれでした。

しかし、書き始めたら次から次へと記憶が甦り、全然ちょこっとではなくなりましたし、データを三度見するほどたくさんの方に読んでいただき、書籍化を望んでいただき、それが実現して、今もただただ驚いています。

某版元に書籍化を却下されてションボリしていたとき、死んだとばかり思っていた小学館の担当さんと偶然に再会し、希望を実現していただけたのは、なかなかに謎ドラマチックでした。私にとって運命の作品なのだなと改めて感じます。

――連載では全19回というボリュームのエピソードとなっていますが、ご執筆にあたって苦労した部分、当初の構想から変わった部分や膨らんだ部分など、執筆時のエピソードはなにかありましたでしょうか。大幅な加筆・書き下ろしをされた書籍化作業のなかでのエピソードも合わせてお教えください。

さくっと読めるのがエッセイのいいところなのに、こんなに続けてどうするんだよ……と思いはしましたが、たくさんの方が「楽しみにしている」とコメントを寄せてくださったので、安心して続けることができました。

ステキブンゲイさんがアクセス数などのデータをわかりやすく見せてくださるので、それが大きな励みにもなりました。

最初から構想などなかったので、思い出しながら、情報の取捨選択をしながら、淡々と書きました。どんなに筆が乗っても、もっと楽しませようと「話を盛る」ことがないように、敢えて、山盛りにしたご飯を七分目に減らすような冷静さを心がけました。

連載時は、あくまでも祖母と私の関係性を軸に綴りましたが、「バッド・ガール編」についても読みたいというお声が多く、書籍用にそれを書き下ろすことに。何やらたいへん気恥ずかしかったです。

あと、祖母との話なので、やはり祖母である方に表紙を担当していただきたいと我が儘を言い、木村セツさんに素敵なちぎり絵をご提供いただけたことは、一生の記念です。


「晴耕雨読に猫とめし」

――「晴耕雨読に猫とめし」は、はじめてのエッセイ連載とうかがっています。以前「ナニヨモ」のインタビューでも、「日々の暮らしの中で自然と目に留まったものや、心が動いたことがらについて、気負わず素直に綴りたい」とおっしゃっていましたが、約1年半連載を続けてきて、あらためて感じているエッセイを書く面白さ、難しさなどをお教えください。

たぶん、エッセイを書こうとして、目を皿にしてネタを探し始めたら、そのときが「終わりの始まり」であり、実際、終わりはすぐにやってくるのだろうな、と感じています。

若い頃に、「君はまだ削れる身が少ないから、エッセイは早いです。あっという間に骨になります」と制止してくださった師に、今さらながら感謝する日々です。今は……今は、経験と知識の贅肉がそこそこついて、楽しんであちこち削りながら出汁を取っ……もとい、エッセイを書いている感じです。

実際にエッセイを書くたび、リアル贅肉も減るともっとよいのですが。

何かの拍子に浮かび上がってきて、それを無邪気に掬い取ったことで出来上がった、一生に一冊の本

――エッセイを書くことによって、本来の小説のご執筆になにか影響があったようなことはありますでしょうか。

小説の執筆の合間に、気分転換としてエッセイを書いています。小説に何か影響が出たということはありませんが、エッセイはエッセイで、読者さんがお考えになるよりおそらくだいぶ真剣に書いているので、実は気分転換にも休憩にもなっていない……というやや困った現象は起きています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

『祖母姫、ロンドンへ行く!』のような作品は、おそらく意図して書けるものではありません。私の心の中で、年月を経てゆっくりと熟成された旅の記憶が、何かの拍子に浮かび上がってきて、それを無邪気に掬い取ったことで出来上がった、一生に一冊の本だと感じています。

どうか、『祖母ロン』を読んでいただき、身近な、大切な方へ思いを寄せていただければと願っております。

 ***

椹野道流(フシノ・ミチル)
兵庫県生まれ。1996年に『人買奇談』で講談社の「第3回ホワイトハート大賞」エンタテインメント小説部門で佳作を受賞し、翌1997年に同作品でデビュー。同作に始まる「奇談」シリーズ、「鬼籍通覧」シリーズ、「貴族探偵エドワード」シリーズ、兵庫県芦屋市を主な舞台とし2018年にドラマ化もされた「最後の晩ごはん」シリーズなど多くのロングセラーがある。近著に『最後の晩ごはん 19 兄弟とプリンアラモード』『妖魔と下僕の契約条件 4』『時をかける眼鏡 9 宰相殿下と学びの家』のほか、フォトエッセイ集『ちびすけmeetsおおきい猫さんたち』などがある。

ナニヨモ
2023年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ステキコンテンツ合同会社

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