『DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント (原題)DRINKOLOGY』アレクシス・ウィレット著(白揚社)

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『DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント (原題)DRINKOLOGY』アレクシス・ウィレット著(白揚社)

[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

「飲むと効果」疑ってみる

 ありとあらゆる飲み物について書かれた本書を読めば、飲むのが怖くなる。私たちがいかに謎多きものを飲んでいるかを浮き彫りにしながら、「証拠はない」「確証はない」「データはない」「科学的根拠はない」「まだまだ多くの調査が必要だ」と、せっかく得た情報が知識になる前にこぼれぬよう、しっかり疑いを向けることも必要だと教えてくれる。

 それと同時に、口より先に、目で栄養を取り込もうとしていることにも気づく。「糖質0」「特定保健用食品」「天然由来」など、商品ラベルには良いことばかり書かれている。何か買おうとすれば、時間に余裕がない時ほどそんな情報に流されがちだ。その成分が入っているということは、それ以外のどの成分が入っていないか。それを知ることこそが大切なのに。

 そして、どこかへ誰かを訪ねて行けば、ほとんどの場合、頼んでもいないのに飲み物が出てくる。出すのがマナーなら、飲むのもマナーだ。そうした気遣いに気遣いながら、「飲まない」自由が奪われていく。込み入った話や雑談をする際などは、カフェや居酒屋に行く機会も多い。このように、誰かと関わる上で「飲む」ことは避けて通れず、やっぱり怖い。

 人は、健康な時ほど、もっと健康になりたい。心が元気なうちに積極的に行動して、健康の貯金を試みる。心に余裕があるせいでそうした欲が出るのだろう。でも残念ながら、健康を貯(た)めることはできない。過不足ない凪(なぎ)の状態。それが健康だからだ。反対に、とことん体調が悪ければ、もう貯金などいらない、ただ当たり前が欲しいと願う。そして、そんな当たり前の時こそ、つい体に悪い物を欲しがる。こうしてじゃんけんみたいに、健康を中心にそれぞれがグルグルと回り続けている。だからこそ、ただ見聞きした情報だけを鵜呑(うの)みにせず、しっかり疑いを向け、自ら噛(か)み砕いて得た知識こそが大事なのだと思う。べつに証拠はないけれど。井上大剛訳。

読売新聞
2023年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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