『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』笠井亮平著(文春新書)

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

著者
笠井 亮平 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166614011
発売日
2023/03/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』笠井亮平著(文春新書)

自律的外交 独自の戦略

 4月19日、国連人口基金は、インドの人口が今年半ばに中国を上回って14億2860万人に達するとの推計を発表した。インドの人口が中国を上回るのは初めてで、これはインドが世界史上最大の人口大国となったことを意味する。経済やIT、宇宙開発、ワクチン製造でもインドは今や世界の注目株だ。そんなインドとは一体どんな国なのか……という関心に基づく「お国事情」本は世の中に少なくない。

 これに対して本書の関心はやや異なるところに置かれているようだ。インドの政治・経済・社会といった「お国事情」的側面にも触れられていないわけではないが、そこは基本を押さえるに留(とど)め、あまり深入りしようとはしていない。

 代わって重視されているのが、中国や南アジア諸国で進められているインフラ開発で、特に中国の一帯一路計画には多くの紙幅が割かれている。日米を中心として提起された「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想、日米豪印による安全保障対話枠組み「クアッド」についての解説も詳しい。こうしたユーラシアの地政学的・地経学的動向を丁寧に見ていくことで、インドの持つ存在感と戦略が浮かび上がってくるというのが本書の仕掛けであると見受けた。

 そこで見えてくるのは、太平洋とインド洋、海洋と大陸をつなぐ結節点としてのインドの重要性である。ただ、当のインドは、米国や中国といった超大国が繰り広げるゲームの駒ではない。その中にあってもインドは「インドという存在」として自律的に振る舞っているのであって、例えば米中対立やグローバルサウスという大掴(づか)みな図式では捉えきれないのだという印象が強く残った。コラムでは古代インドのリアリズム外交術「アルタシャーストラ」が紹介されているが、このような戦略思想の伝統は現代のインドにも息づいているのかもしれない。おそらくこれが本書のタイトルである「第三の大国」の意味するところではないだろうか。

読売新聞
2023年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク