書店の買い切り宣言で大重版! リスクをはねのけた名著への愛

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中世への旅 騎士と城

『中世への旅 騎士と城』

著者
ハインリヒ・プレティヒャ [著]/平尾浩三 [訳]
出版社
白水社
ISBN
9784560721117
発売日
2023/04/26
価格
1,980円(税込)

書店の買い切り宣言で大重版! リスクをはねのけた名著への愛

 書店にとって返本制度とは命綱のようなものだ。売り場で販促を大々的に展開するにはまとまった量の注文が必要だが、本が売れ残ってしまった場合、返本制度がなければ、書店側は不良在庫を抱えることになってしまう。

 このリスクをものともせず、長らく復刻を望まれていた品切れ本の買い切りを約束して重版にこぎつけ、みごと売り切ってみせたという景気の良いニュースが舞い込んできた。現場となったのは本の街・神保町で、“趣味人専用書店”を掲げる書泉グランデだ。

 同店では昨年から中世~近世ヨーロッパを扱う書籍や関連グッズを集めた「ヒストリ屋」というイベントを開催して好評を博している。第一回は、実際に着用できる甲冑や蜂蜜酒、羊皮紙など当代の雰囲気溢れるアイテムが企画の中心だった。

「ところが想像以上に書籍のほうの売れ行きが好調でして。今年は書籍をメインに売り出すことが決まり、その際の目玉にと考えたのがこの『中世への旅 騎士と城』でした」

 と担当者の大内氏は語る。

 本書は合戦や攻城の様子をはじめ、食べ物やファッション、教育にいたるまで、騎士文化最盛期の生活の姿を生き生きと浮かび上がらせる名著だ。1982年に初版が発売され、2010年に今のレーベルに入ったものの、品切れ重版未定となり古本でも手に入りにくい状況が続いていた。そこで同店が「重版した分を全て買い切る」ことを条件に版元の白水社を説得。ふたを開ければ当初の重版分は一週間ほどで完売、三月末までの受付だった再重版予約はなんと一万二千八百冊に上った。

「自分がこの本に出会ったのは『ドラゴンクエスト』等の“中世ヨーロッパ風”のゲームやファンタジー小説に親しんでいた中学生の頃だったのですが、それまで漠然としたイメージだったものがはじめて血肉を伴って現れたようで強い感動を覚えたんです」(同)

 誰よりも読み込んでいるという自負があるからこそ自分の手で売りたかった、と話す大内氏。つまるところ売り場を動かすのはその一冊に込められた愛なのだ。

新潮社 週刊新潮
2023年5月18日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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