『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光著(文芸春秋)

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『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光著(文芸春秋)

[レビュアー] 小川哲(作家)

7人死亡 凶行の全貌

 二〇〇二年に福岡県北九州市で発覚した監禁連続殺人事件について、多くの人はご存知だろう。脅迫と拷問によって監禁した人物を洗脳し、多額の金銭を騙(だま)しとった上で互いを殺させ、死体を切り刻んで遺棄し、証拠の隠滅を図った事件だ。七人が亡くなり、主犯の男には死刑、共犯の女には無期懲役の判決が下された。

 本書は表題の通り、一連の事件の「完全ドキュメント」である。監禁されていた少女が脱出し、事件が表面化したところから第一章が始まる。当時の警察、検察、弁護士の動きを丁寧に追いつつ、章を追うごとに事件の全貌(ぜんぼう)が明らかになっていく構成となっている。

 裁判の過程では、目を覆いたくなる拷問の実態や、子どもたちへの酷(ひど)い仕打ち、人間の弱さを利用した悪質な手口などが明らかにされていく。事実の描写に徹した淡々とした筆致に滲(にじ)む著者の怒りを感じつつ、これほどまでに凄惨(せいさん)な事件がなぜ起こってしまったのかを知ることになる。

 評者の本心を包み隠さずに言えば、本書を紹介する行為が正しいことなのか、いまだに自信が持てずにいる。本書には、判決文に「犯罪史上比肩するものがない」とまで記された残虐な事件の顛末(てんまつ)が細部まで記されている。読むことで気分が悪くなる人もいるだろう。誰にでも勧められる本とは言えないかもしれない。

 しかしながら、本事件がこの日本で発生したことは事実であり、長時間にわたる取材と事実関係の調査によってその全貌を明らかにした著者の熱意と手腕は素晴らしく、あのとき北九州で何が起こっていたのかを知るための完全版として、この先の何年、何十年と読み継がれるべき力作であることも間違いない。

 評者が言うべきことではないことは自覚しているが、改めて言っておきたいのは「どうか無理をしないでいただきたい」ということだ。監禁に耐えられなくなって逃げだした少女の証言がこの事件を露呈させた事実を忘れてはならない。苦しかったら途中で読むのを中断し、また心の余裕ができてから再開するのもいい。

読売新聞
2023年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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