『リスキリングは経営課題 : 日本企業の「学びとキャリア」考』
- 著者
- 小林, 祐児, 1983-
- 出版社
- 光文社
- ISBN
- 9784334046521
- 価格
- 1,012円(税込)
書籍情報:openBD
『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』小林祐児著(光文社新書)
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
「学び直し」生かす仕組み
日本のビジネスパーソンは「国際的に見ても圧倒的に学ばない」という。多くの人々は日本企業の雇用システムや組織風土の中で、さしたる理由もなく「なんとなく」学ばず、リモートワークで浮いた時間も自己研鑽(けんさん)にはほとんど使われていない。そのような中、急速なDX(デジタル・トランスフォーメーション)を背景とした大量の労働移動が不可避だとして、世界では時代に応じた知識や技能の「学び直し」即(すなわ)ち「リスキリング」の動きが加速している。
日本においてもその気運は一気に盛り上がり、政府は「5年間で1兆円」の支援を発表した。人的資本開示の動きもあり、企業も人材は企業成長を生む資本だとして積極的な学びを呼びかける。「学ばなさ」「変わらなさ」という重い課題がある中で、この動きを掛け声だけの企業風土改革に終わらせないためには、リスキリングを梃子(てこ)として、日本企業の活性化につながる「仕組みの変革」が必要であり、これは「経営課題」であると著者は訴える。
単発の「デジタル研修」や資格取得のための知識の詰め込みなどにとどまらず、学びを組織や仕事の中での具体的な変化を伴う行動変容と価値創出につなげなければ、学びのモチベーションの維持は難しい。現状維持ではなく変化への挑戦を歓迎することを組織で共有する仕組み作りが重要であり、各企業の工夫が問われる。また共に継続的に学び合う「学びのコミュニティ化」の仕組みとして著者は企業内大学の設立や充実に期待を寄せ、そのような場での学びを通じた他者とのつながりの重要性を強調する。一方、最もリスキリングが必要でありながら企業だけでは取り組みが不十分になりがちな非正規労働者の学びについては国が重点的に支援することも必要であると指摘する。
現在の学びの気運の高まりを表層的で一過性のブームとしてはならない。本質的な議論の高まりを期待したい。