なぜ生きている間に伝えられなかったのか? 「天国からの宅配便」が気づかせてくれた、かけがえのないもの

レビュー

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自分の死後に、荷物を配達してくれる〈天国宅配便〉。届けられた想いは形を変え生き続ける── 『天国からの宅配便 あの人からの贈り物』柊サナカ

[レビュアー] 大矢博子(書評家)

 あなたは人生の最後に、どんな遺品を、誰に贈りますか?

 生前に託された依頼人の遺品配送サービス「天国宅配便」。配達員は贈り物を通じて、いくつもの人生と出会っていく。「涙なしには読めない」と大好評だった第1弾『天国からの宅配便』の続編が刊行されました。

「小説推理」2023年4月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『天国からの宅配便 あの人からの贈り物』の読みどころをご紹介します。

■亡くなる前に託された遺品が届いた時、新たな物語が幕を開ける──。いなくなって初めて知る事実に家族は何を思うのか。感動の第2弾。

 やられた。第2話で緩んだ涙腺が、第4話で決壊した。

 誰かに渡したいものを託しておけば、自分の死後にそれを配達してくれる〈天国宅配便〉の第2弾である。

 前作を読んだとき、物語に心震わせる一方で、「なぜ生きている間に伝えないのか」と思ったのを覚えている。だからこそ生きていることの大切さが伝わってくるのだが、この第2弾はそんな不満を軽々と飛び越えてきた。

 本書に収められている物語は4篇。第1話は転売屋。同好の士を装って騙す形でカメラを買い取っていた相手が死に、遺品の貴重なカメラが届けられる。第2話は小学生。死期の近い曾祖母の元に届けられた謎の手紙を解読しようとする。第3話は造園業の跡取り娘と温室の持ち主の40年以上にわたる交流。そして第4話は、思い出したくもない相手から届けられた遺品を巡る物語だ。

 特に印象に残ったのは第2話。幼い頃、アメリカで育った曾祖母のもとにとどいた当時の友人からの手紙は、日本語でも英語でもない謎の文字で書かれていた。いったいどこの国の言葉なのか。病で意識のはっきりしない曾祖母になんとか読んであげたくて、主人公は外国人に手当たり次第に尋ね回る。

 その過程がとてもいいのだ。尋ねられた様々な国の人々が主人公の思いを受け止め、自分の国の言葉ではないがあの店には別の国の人がいるよと話をつないでいく。その様子は、手紙が解読されたときに浮かび上がる悲しい事実への見事な「返事」になっているのである。この1篇だけでも、本書を読む価値がある。

 さらに泣かされたのが第4話だ。これはもう多くを語るまい。私はどうも、縁もゆかりもない相手をただ助けたいから助けるという話に弱いらしい。コスパだのタイパだの見返りだのではなく、困っている人がいるなら助けるというシンプルな思い。その連鎖がこの2話にはある。

 そしてそれこそが〈天国宅配便〉なのだ。思いを伝えられずに亡くなった人の、その思いを汲んで届ける。そこから新たな物語が始まる。第1話の青年ははからずも宅配便の続きを担う形になり、それによって自分もまた生まれ変わる。第3話の主人公にもたらされたしめやかにして鮮やかな救い。伝わった思いはいろんな形で生き続ける。前作を読んで「なぜ生きている間に」と思った自分を猛省した。思いは受け取るだけではない。受け継いで、そこからまた始まるのだから。

小説推理
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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